世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】梶谷真司「考えるとはどういうことか」

今年71冊目読了。東京大学大学院総合文化研究科教授の筆者が、0歳から100歳までの哲学入門を説く一冊。


哲学入門、としつつ、その中身は「集まった人々がフラットに対話を深めていく」という『哲学対話』を対象としている。


哲学について「世間から見れば、哲学というのはごく限られた物好きや変人がやる怪しげな所業に過ぎない」と、まず客観視する。そして、哲学がやや(かなり?)斜めに見られることについて「家庭でも学校でも会社でも、私たちはその場にふさわしいこと、許容されそうなことだけを言う。そうでないことを言うのは、明に暗に禁じられてきたか、自ら控えてきたかだろう」「現実の生活の中では、考える事由がほとんど許容されていないからであり、しかもそれは、まさに考えることを許さない、考えないように仕向ける力が世の中のいたるところに働いているから」と説く。結果として「ダイジョウブ、何も質問がない、というのは、『何も考えていません』『何も考えることはありません』『考えるのは面倒くさいです』『考えるのはやめました』」という状況に堕してしまう。


そして、哲学の本質を「『問い、考え、語ること』『分からないことを増やすこと』」と定義する。そのうえで「自由と多様性が思考に深みと広がりを与える」「思考は、論理的で一貫性がないといけない。だがそれだけではなく、他人や物事に対してのみならず、自分自身に対しても批判的・反省的でなければならない。柔軟で自由でなければならず、バランスや公平さも必要である」と述べる。


問うことの重要性も、実に興味深い。「問いは思考を動かし、方向付ける。だから、考えるためには問わなければならない。重要なのは、何をどのように問うかである」「ところが日常生活において、人に問いかけるというのは、きわめて難しい。誰かが質問するときは、怒っていることが多い」「問う方法がわかれば、考えることができる」「自分にとっての問いの意味を問う」「知識はそこからさらに問うてこそ意味があり、問いは知識によってさらに発展する」など、なるほどなぁと考えさせられる。


生きていくうえで留意すべきこととしては「人間は自ら考えて決めたことにしか責任はとれないし、自分の人生には自分しか責任はとれない」「自分でつまづいて自分で考えたことしか、その人のものにはならない」「聞くことにおいて本質的なことは、音声となった言葉を受け止める以前に、その人のためにその場にいて、その人の存在をそのまま受け止めること」など、心に響く。


全ての基礎をなしているのは「みんな考えることが好きなんだ。考えることって楽しいんだ」という著者の言及のとおり。逆に言えば、考えないということは「人間である」ことを放棄しているようなものだ。日々、惰性で生きている自分を戒めないと…


新書だといって侮ると、大変。文章も非常に平易だが、その中身はぶ厚く、しっかりと読み込むことで理解を深める本だ。もっと言えば、思考の実践を通じながら、「体得していく」本のようにも感じる。著者も「自分がものを考えている時の身体感覚に敏感になった。思考が深まる時、広がる時、行き詰まる時、それぞれ特有の感覚がある」と言及しているし。ぜひ、一読をお勧めしたいし、一度は「哲学対話」に参加してみたい、と思わされる本。