世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】森川すいめい「感じるオープンダイアローグ」

今年99冊目読了。精神科医、針灸師にしてNPO法人世界の医療団ハウジングファースト東京プロジェクト」理事の筆者が、オープンダイアローグの哲学と手法について紹介する一冊。


SNSでお薦めしている友人が複数いたので読んでみたが、なるほどこれは真理に迫るものがあるんだろうな、と感じる。


なぜ、対話が大事なのか。「人類の歴史を動かしたのは、いつも対話だった。人は対話をやめたときに戦争を始めてしまう。人を支配し管理してしまう」「対話の場に複数の人達がいることによって、事態を多面的に理解することを助け、すると困難を解消するためのアイデアや道筋がいくつもあることに気づいていく」「対話の場は、全員が対等で初めて成り立つ。上下関係があることは、対話を阻害する」というあたりの筆者の気づきが、大きなカギを握っている。


オープンダイアローグを誕生させたフィンランド・ケロプダス病院のスタンスとしては「スタッフは、他者を大切にする姿勢が一貫している」「すぐに助ける。本人にかかわりのある人達を招く。柔軟かつ機動的に。責務・責任。心理的な連続性・積み重ね。不確実な状況の中に留まる・寄り添う・すぐに答えに飛びつかない。対話主義」「オープンダイアローグの目的地とは、自然に対話が起こること」を挙げる。これは素晴らしいチームなんだろうな、と感じる。


では、実際に対話をどのように行うのか。「それぞれが話したいことを話し、それぞれが他者の話を聞く。話し切る、聞き切ることができるように、話す時間と聞く時間を丁寧に分けて、それらを丁寧に重ねていく」「そこには魔法のようなものはない。ただ実直に、誠実に、対話を開いているだけだ」「対話の場にいるそれぞれの思いが重なって、新しい考えやそれまで話されていなかったことが話されるようになっていく」のあたりは、書くとさらっとしているが、相当ハイレベルなことを行っている。まずは、自分のあり方が大事なんだろうな、と感じる。


実際に筆者も「自分自身との対話ができていなければ、他者との対話を開くことなどできない」「ありのままの自分が他の人に受け入れられることによって、私は自分自身を受け入れられるようになっていったと思う」「私は、それまで、人の痛みに向き合うことができていなかったように思う。目の前の人が自分の過去を話し、蓋が開いてその傷があらわになると、私はひどく動揺し、自分ではどうにもできないと思い、話を深めないようにしていた。しかし、私はふたが開いても大丈夫なことを知った。安全な場所で蓋を開いて、話をすることによって祝福してもらえた。だから同じように、話を聞くことができる」と、その経緯を語っているとおり、自らの体感がないと、これは取り組むのが難しい、ということなんだろう。


価値を置いていること、価値があると思うことについてのダイアログについては「一人ひとりが何に価値を置いているか、何を大事にしているのかを知ることは、その後の関係性によい影響を与える」「価値のセッションは、誤解を取り除き、理解し合うことを助けてくれる」とその重要性を強調する。


自殺希少地域の傾向も、興味深い。「人間関係は疎で多、ゆるやかな紐帯、近所づきあいは挨拶程度・立ち話程度、右へ倣えを嫌う、病は市に出せ、学歴とか肩書でなく人物本位」というのは、今後のコミュニティのあり方を考えるうえで大事なことだ。


「日本は、世界中でもっとも多くの精神科病院を持ち、世界の精神科病床数の5分の1が日本にある。そして、何年も何十年もの間、長期にわたって入院する人が世界一多い。そのことに疑問を持つ人はたくさんいるし、抗おうとする人も多くいるのだが、今のところ変わる気配はない」という日本において、専門家に丸投げせず、一人ひとりがどう向き合っていくのか。精神科だけの話ではない、会社や家庭など、すべてのコミュニティに共通する理念がここにあるように思う。