世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】北野唯我、百田ちなこ「これからの生き方」

今年109冊目読了。ワンキャリア取締役として人事領域・戦略領域・広報クリエイティブ領域を統括する筆者と、漫画・イラストレーターが組んで「自分はこのままでいいのか?と問い直すときに読む本」として作り上げた一冊。


漫画のストーリー展開から、生き方について掘り下げるという二層構造だが、これが非常にわかりやすい。一見ビジネス書のようでもあるが、その実、生き方をまさに問う、という形がわかりやすい。


働くことと、やりたいことについて「ほとんどの働いている人は、実際には、作りたいもの、やりたいことなんてない。だから、自分のそれ以外の部分、”装飾”が気になる。どういう会社に勤めているとか、どれぐらい出世したとか。だから、出世や肩書を気にする」「そもそも、人が自分がしたいことが見つからないのは、ほとんどの場合において、まだ十分に多種多様な人間と出会っていない(=判断材料がない)だけ」という指摘は至当だし、故に、色々な体験を自ら積む必要がある、と感じる。「どうやって感性を磨くのか。それは、体験を観察し、違いに気づいていくこと」の言葉をヒントに、こだわって観察してみたい。


また、人間関係の悩みについては「ほとんどの場合において、職場での衝突は『価値観が違う人同士』で起こる」とし、それへの対応方法としては「仕事への価値観という言葉の解像度を上げる。具体的には、1)自分の価値観を要素に分けて理解し、忘れないように何度も何度も確認する2)そのうえで、相手の価値観とは何が同じで、何が違うのかを確認する」「行動・動機・価値観の3つに分けて、その人の真意を見る」とする。この視座は、非常に大事であり、それが異質の組み合わせを化学反応に持ち込むカギでもあろうと感じた。
また、筆者が自らの体験に基づき主張する「その人自身が『本質的に何に感動して、何に涙を流し、何に喜ぶのか』は最も嘘がつきにくい」「人は言葉で嘘をつくことができても、長い目で見た時の行動では決して嘘がつけない。それが真理である」は非常にパワフル。


「辛い経験は、長い目で見たときに、自分の人生にとって確実にプラスの指針になっている。なぜなら、人は『苦しいときにこそ、自分の人生の生き方を否応なしに問われざるを得ないから』」「人は自らや他人に期待するから、ときに育ち、裏切られたと感じるのだ」「難しい決断を何回してきたか?どれだけ悩んで、自分で選択してきたか?それが多いほど、成長できる」などの言葉も含蓄があり、生きるうえでの参考にできる。これは面白い本だ。


45歳にして読んでいるだけに、「人生の後半になればなるほど、自分の人生をよりよく生きるための知恵を持っているか、自分の足で立ち、そして自分の頭で考え、生きる術を考えてきたか、それが問われるフェーズに入る」「役割が変わる事。それを自分で受け入れること--これは、今の時代だからこそより重要になっている。寿命が長くなるというのは、役割を再定義し続ける必要が出てくる、ということだ」「仕事への満足度を決めるものは、歳を重ねるごとに、『環境重視型』と呼ばれるものになっていく。仕事内容や給与よりも、どんな環境で働けるか、自分の趣味や、自分の生活ペースを崩さずに働くことができるか、ということを重視するようになる」「リーダーの本当の価値って、耳が痛い事実も、受け止められるか?でほとんど決まる」あたりが肌感覚で理解できる。
「当たり前って、語源は”一人当たりの分け前”から来ている。昔、魚をみんなで捕まえたら、その分け前をもらう。その権利を指して、当然、当たり前にもらうべきものって意味になった。だから、当たり前が変わるってのは、その権利が変わるってこと」は、変動の多い現代社会だからこそ、留意しておきたい。


読みやすいが、中身は深い。侮らずに、しっかり自分に向き合いながら読みたい良書だ。