世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】長谷川ヨシテル「ポンコツ武将列伝」

今年26冊目読了。タレントにして歴史マニアの筆者が、ポンコツと評される武将の実態と魅力に迫るちょっと変わった一冊。


かなりマニアックな本なのだが、そこから見える人物像、人の成功は何なのか、ということなど、なにげに考えさせられる。


小田氏治について「9回も城を落とされるなど敗戦を重ねたが、戦場で命を落とすことなく戦乱を生き抜いた」「何度も城を落とされているということは、何度も取り返しているということ」「百姓たちは、氏治以外の大名が城に入れば姿を隠し、年貢を納めなかった」。


源行家については「合戦では負け続けの武士人生を送り、軍事においては『無能』と称されてしまうが、『以仁王の令旨』を受けて源氏の挙兵を促し、理想の通りに平家を打倒してしまうあたり、交渉人や工作人としては『有能』」。


佐久間信盛については「困難を極める殿軍を得意としたが、名誉よりも自分の命や財産を大事にしたため、武者の道を外れた卑怯な者という評価を下され、最終的に織田家を追放されて寂しく亡くなってしまった。立場ある者である限り、勝負をしなければならない場面で退いてはいけない」。


織田信雄については「武将としてはポンコツだけど、どこか憎めない優しい人。そういう人物だったからこそ、『越中征伐』や『小田原攻め』で和平の交渉役を勤め上げられた」。


薄田兼相については「「ミスを犯して、職場や社会から叩かれた。それでも折れずに挽回のチャンスを待った。その一度のチャンスをものにして見事に名を残し、後世に物語のヒーローとして語り継がれていった」。


織田有楽斎については「武将としてはポンコツな部分が多かったが、有楽流という茶道の流派や国宝となった茶室を現代まで残し、文化人としては大きな功績を残した。自分の好きなジャンルをとことん突き詰める生き方は、現代人の我々に欠けている、豊かな生き方を提示してくれている」。


三英傑についても面白い。信長は「名将ではあると思うが、時々『大丈夫、大丈夫!だって俺だぜ』というような強い自信からくる脇の甘さがある。『俺に限ってそんなことは起きない』という自負心故に戦国時代を駆け抜けていくが、その自負心故に身を滅ぼしてしまう」。秀吉は「とにかく女好き」。家康は「追い込まれると切腹しようとする癖がある。一種の現実逃避ともいえるのでは。周囲の声を聴いて、もうひと踏ん張りした」とする。秀吉の酷さ(苦笑)。


軽いトーンながらも、なかなか心に響く指摘として「小さな目標や個人の目標ばかり気になって、大きな目標やチームの目標を忘れてしまう。また『怒られないためにやる』というような変なモチベーションで動くべきではない」「人間は複数のコミュニティーに所属して成立する生き物。物事の優先順位はもちろん大事だが、何かを絶対だと思ってのめり込んでしまい、他をおろそかにすると、身を滅ぼす結果を招く」「『諦めるな!』と口で言うのは簡単だが、それを具体的に行動に移すのは難しい」のあたりは鋭いなぁと思う。


ゆるい表紙のイラストと軽妙な筆致にかかわらず、意外な奥深さがあって楽しめる。これは当たりな本だった。