世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】萩原さちこ「城の科学」

今年27冊目読了。フリーの城郭ライターで編集者の筆者が、個性豊かな天守の「超」技術を紹介する一冊。


城好きでないと、まず手にしない本だし、そうでないと読んでて楽しくないだろうな、という図書館で見つけた一冊。よくこんな本が出版されたものだ(笑)。


城と都市の関係について「新幹線が停車するような発展した都市には必ず城があるのは、城が領国の要であり、流通・経済・商業の中心地であったから。近世以降、城を中心に城下町が繁栄し、現代社会がつくられてきた。発展した都市だから城が残っているのではなく、城があるから都市が発展した」と述べるのはそうだし、「天守は壮麗なシンボルタワーであると同時に、それ以上に実戦のための防御施設としての役割を担っていた。見た目の美しさが大切なのは間違いないが、美観と実用を兼ね備えていることがとても重要だった」というのも納得。


他方、「軍事施設である城は、時間をかけて素材を厳選し、こだわり抜いてつくられる。ときには辻褄合わせのような技術を使い、ごまかしたりすることも。試行錯誤した、不完全さが詰まっている。生まれながら特別な存在意義を持って維持と管理がされてきた寺院建築とは異なり、天守は常にガタを抱えながら、時代の変化のなかでなんとか生き延びてきた建物」という観点は忘れられがちで、押さえておきたいポイント。


時代による変化についても、信長は「天主を建てただけではなく、城全体を高い石垣で囲み、恒久的な礎石建築を城に取り入れた。それまで戦うためだけにあった城には見せつけるという要素が加わり、存在意義までもがらりと刷新された」。それが家康の時代には「軍事施設であれば実用性さえ追求すればよく、絢爛豪華な天守など必要ないように思えるが、新領主の威厳と威光、さらには徳川政権の権力と新時代の到来を見せつけるため、強さと美しさを兼ね備えるのが、この時代の城のあり方」「家康の命により天下普請で築かれた城は、同一規格なのが最大の特徴。徳川の城は、統一化されているため実用がスムーズ。いつ誰が命を受けてもすぐに使いこなせる」となる、ということを頭に入れるとまた城の面白さが立体的になる。


個別にも「平成27年松江城天守天守としては67年ぶりに国宝指定された。大きな理由は、独自の建築技法が明らかになったこと、その建造年が判明したこと」など面白い記述は多いのだが、あまりにもマニアックすぎるので割愛。余談ながら「天守閣という呼称は明治以降の造語。おそらくは楼閣建築から天守が発展したという解釈から生まれたようで、俗語」は知らなかった…


間違いなく一般受けしないが、一般の人はこんな本を手に取るわけもない、か(苦笑)。