世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】平野啓一郎「私とは何か」

今年2冊目読了。ベストセラー作家の筆者が、『私』という存在を「個人」から「分人」へ捉え直すことで、生きやすくなることを提唱する一冊。


筆者の小説が好きなのと、畏敬する先達が薦めていたので読んでみた。なるほど、これは読み応え十分。


筆者は、この本にあたって「本書の目的は、人間の基本単位を考え直すことである。『個人』から『分人』へ」「『人格は一つしかない』『本当の自分はただ一つ』という考え方は、人に不毛な苦しみを強いる」と、大胆な仮説を述べる。


そのうえで「たった一つの『本当の自分』など存在しない。裏返して言えば、対人関係ごとに見せる複数の顔が、すべて『本当の自分』である」「私という人間は、対人関係のいくつかの分人によって構成されている。そして、その人らしさ(個性)というものは、その複数の分人の構成比率によって決定される」とし、あくまで「あらゆる人格を最後に統合しているのが、たった一つしかない顔である」という見解を展開する。


分人という独特の考え方についての解説「分人の数には、人によってかなり差がある。それはおそらく、どれくらいの数の分人を抱えているのが、自分にとって心地よいかで決まってくる」「分人が他者との相互作用によって生じる人格である以上、ネガティヴな分人は、半分は相手のせいである」「重要なのは、常に自分の分人全体のバランスを見ていることだ」「人間は、放っておけば、対人関係ごとに別々の分人になっていく。しかし、その反動として、『個人』という整数的な単位に統合しようとする力も働く。現実的には、その二つのレイヤーを往復しながら生きることになる」のあたりはかなり実感と一致する気がして、引き込まれる。


コミュニケーションについての「コミュニケーションは、他者との共同作業である。会話の内容や口調、気分など、すべては相互作用の中で決定されていく。なぜか?コミュニケーションの成功には、それ自体に喜びがあるからである」「人格とは、コミュニケーションの反復を通じて形成される一種のパターンである」という言及も納得性が高い。


また、親近感のある関係性を「持続する関係とは、相互の献身の応酬ではなく、相手のおかげで、それぞれが、自分自身に感じる何か特別な居心地の良さ」「愛とは、相手の存在が、あなた自身を愛させてくれること。そして同時に、あなたの存在によって、相手が自らを愛せるようになること」と、『相手と』自分、に引き寄せるあたりは流石と感じる。


VUCAで変化の激しい時代だからこそ「個性とは、常に新しい環境、新しい対人関係の中で変化してゆくもの」「まったく矛盾するコミュニティに参加することこそが、今日では重要」「私たちの内部の分人には、統合の可能性がある」という柔軟な考え、捉え方が必要なんだろうな、と感じた。