世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】歌代朔「スクラッチ」

今年69冊目読了。図書館司書、保育士をしながら作品を書き続ける筆者が、コロナ禍の中学生の抑圧と青春を描く一冊。


なるほど、これは中学生の読書感想文課題図書になる深さがあるなぁ。変に恋愛モノになるのではなく、コロナ禍で人生と向き合う中学生たち。こうした傷を作ってしまったことを、大人世代は自覚する必要があろうな…


ネタバレ回避で、気になったフレーズを抜き書き。


「そのうちきっと。そのうちきっと。…そのうちっていつだよ、馬鹿野郎。」「教えて偉い人。うちらはどれだけ、がまんとやらをすりゃあいいんですか?」


「自分の気持ちもよくわからないのに、人の気持ちまで手が回らない」「そうだ、なんかこの絵は嘘っぽいって心のどこかでずっと思っていたんだ。だったらいっそ真っ黒に塗りつぶせ。そんな嘘なんて。嘘の塊なんて。」「削れ。削れ。削り出せ。これが僕だ。今の僕らだ。塗りつぶされて、憤って、うまくいかなくて、失敗して、大声で泣きわめいて、かすかな抵抗をする。いいぞ。慎重につかみ取れ。決して逃がすな。対象を捉えろ。これは狩猟だ。獲物を捕まえろ。生け捕れ。」


「うちらは悔しいんだ。文句くらい言ったっていいじゃんか。大声で叫んで。洗いざらい白状して。そうしたら。まぁボールがあるよな。コートがあるよな。じゃあやるよな。やるしかないよな。」


「僕は、この手で何を描きたいんだ?何のために描きたいんだ?コンクールに入選するためじゃないだろう。何かを目指す、寄せる、そんなじゃなかっただろう。誰かを笑わせるため?嘘をついてまで?…そうだ。もう、そんなんじゃない。僕は、あの暗闇の中でさえ、消えない絵を、描きたいんだ。」「先のことはわからないけれど、一つずつ、今を大事にしていったら大丈夫。そんな風に、静かにおなかに納得が落ちてくる」「あの日のことも、今日までのことも、忘れないし、忘れられない。でも少しずつ。一歩ずつ。僕らは、前を向き始めている。」


「この絵を描いていて楽しかったか?」「蝶が羽化する様は何度見ても素晴らしいものだよ」「めちゃくちゃあがいて、力尽きるか打開する。何もせず力を抜いて、浮上するか間に合わない。どちらも尊い