世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】舘野泰一、安斎勇樹「パラドックス思考」

今年62冊目読了。立教大学経営学部准教授と、株式会社MIMIGURI代表取締役Co-CEOの筆者が、矛盾に満ちた世界で最適な問題解決をはかることを提唱する一冊。


本の紹介を生業とする畏友が薦めていたので、そりゃ面白いだろう、と思って手にした。当然のこと、想定通り面白くてためになる。


筆者は、人間の思考の癖として「人は矛盾した状況に置かれると、大きなストレスを感じる。自覚していようといまいと、そのストレスを軽減するために『効率性か?創造性か?』という二者択一の問いに置き換え、『どちらかに正しい答えがあり、どちらかを選ぶ必要がある』と単純化してしまいがち」「人間は、自分の中に潜んだ矛盾して感情に薄々気づいていながらも、そこから目をそらして、体の良い感情だけを『正義』としてしまいがち」としたうえで、「厳密な正しさを前提にする『論理パラドックス』ではなく、曖昧さを生きる人間社会に特有の『感情パラドックス』に着目する」ことで解決を目指す。


パラドックスの基本パターンを「①素直⇔天邪鬼②変化⇔安定③大局的⇔近視眼的④もっと⇔そこそこ⑤自分本位⇔他人本位」と分類。これはなんとなく理解できる。


パラドックス思考の3つのレベルとして「レベル1)感情パラドックスを受容して、悩みを緩和する。レベル2)感情パラドックスを編集して、問題の解決策を見つける。レベル3)感情パラドックスを利用して、創造性を最大限に高める」と定義。
レベル1)受容・緩和においては「『自分』と『問題』を切り離す。自分の心の奥底に潜んでいる感情パラドックスを『外側』に引っ張り出して、自分を悩ませていた『やっかいな問題』と『感情パラドックス』を切り離す」「悩みを”平凡化”して、ツッコミを入れると楽になる」と解説する。
レベル2)編集においては、前提となる考え方として「①『犠牲』ではなく『両立』のストーリーを探る②『点』ではなく『線』で乗り越える」としたうえで、編集の手順は4ステップ「①犠牲のストーリーを特定する②自らの感情を深掘りする③感情A・Bの関係性について整理をする④両立のストーリーを検討する」を踏むことを薦める。
一番難しい両立のストーリーについては「切替戦略:交互に実行する。因果戦略:因果関係を見出す。包含戦略:上位の感情を見つける」が有用だとし、特に包含戦略については「自らの『真善美』を問い直すことが有効」とする。
レベル3)創造性においては、正直レベル1)2)を通過できれば自動化されるように感じる。が、筆者がキャリアに創造的な変化を生み出すヒント「①惰性で満たされている感情を反転させる②仕事の目的と手段の関係性を逆転させる③適度な”無理ゲー”を仕立てて自分を鼓舞する④越境学習とワーケーションで”外”を作る」は使えそうだ。


人が苦しむ現代において、「心から『やりたい』という気持ちと、周囲から求められる『やらねば』という気持ちは、一定の割合で衝突してしまう」は、まさに心の病を引き起こすトリガーのように感じる。そして「『気晴らし』が、固定化された日常から身を引き離し、心身のエネルギーを充填してくれる。日本社会において、パチンコなどのギャンブルや、酒やたばこなどの健康被害のある嗜好品が容認されているのは、大衆にとって気軽な『気晴らし』の手段となるから」というのも、そうなんだろうな。


筆者が本書を通して伝えたいメッセージ「①『人間はめんどくさいけれど、愛らしい存在』と考える②『矛盾を遊ぶ』経験を積み重ねる」は確かに大事。すぐに実装するには難しい部分も多いが、基本的な心構えとしては非常に役立ちそうだ。