今年125冊目読了。ベストセラー作家が、首相暗殺について、殺人の容疑をかけられた人物の側から描き出す会心作。
これは本当にスリリングで、圧倒的。首相暗殺、という『見えている』ストーリーを、裏側から見せるという形で凄まじいドキドキ感を味わえる。スピード感がたまらなく、ついついページをめくってしまう。そして、最後は色々なピースがピッタリとハマって完結する、という伊坂幸太郎らしい終わり方。本当に圧倒される。
それにしても、元首相とはいえ、2022年に読むと、やはり安倍晋三暗殺と結び付けてしまう。実は、この事件も裏に何かあるのかも、と妙な勘繰りさえ入れたくなってしまう。それほど、よくできた小説だ。
ネタバレ回避で、印象に残ったフレーズを抜き書き。
「ネーミングっていうのは、大事なんだよ。名前を付けるとイメージができるし、イメージで、人間は左右される」「聞こえがいい名前はたいがい怪しい。思いやりとか、ふるさととか、青少年とか、ホワイトカラーとか」
「人間の最大の武器は、習慣と信頼だ」「むしろ、人間の最大の武器は、笑えることではないか?どんなに困難で、悲惨な状況でも、もし万が一、笑うことができれば、おそらくは笑うことなどできないのだろうが、笑えれば何かが充電できる。それも真実だ」
「大した根拠もないのに、人はイメージを持つ。イメージで世の中は動く」
「感情的に喚くのは誰のためにもならない、と分かっていた」
「絶対にやりそうもない奴がやった、ってのは盛り上がりますね」「人の気持ちなんてそういうものです。相手の態度が悪ければ、意地悪したくなるんですよ」
「マスコミってのは、無茶はしないんだ。ノリで行動はしても、ジャンプするのは安全地帯の中でさ。叩くのはいつだって、叩いても平気だ、と分かってから」「多数意見や世論、視聴者の興味や好みに沿わない情報は流さない、流せないのがマスコミの性質なのだろう」
「動物ってのは、大きな声とか音が急に聞こえたら、そっちを気にするようにできているんだ。危険がないかどうか、そっちを見ずにはいられないんだよ」
「政治家とか偉い人を動かすのは、利権なんだよ。偉い人は、個人の性格とか志とかは無関係にさ、そうなっちゃうんだ」
「結局、最後の最後まで味方でいるのは、親なんだろうなあ。俺もよっぽどのことがない限り、息子のことは信じてやろうと思ってんだよ」