世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】有川浩「空の中」

今年141冊目読了。ベストセラー作家が送り出す、未曾有のスペクタクルエンタテインメント小説。


航空自衛隊などがモチーフになっており、非常にワクワクする。やや恋愛話が甘ったるいきらいはあるが、それを抜きにしてもSFとして非常に優れている。ネタバレ回避で詳細は書かないが、これは面白かった。


人間の悩む点について「お前は余計な僻みが強いな。僻んだ人間は伸びん」「割を食うっていうのはね、全然正当なこっちゃないの。理不尽で不条理なもんなの。理不尽で不条理なもんを食わされたってことを君が分かってりゃいいんじゃないの。それで僻んだり悩んだりする必要は全然なくてね。下らなくてもったいないよ、そんなことで引っかかんの」のあたりは、僻みがちな自分には耳が痛い…


人間の情動の本質についても「人間とゆうがは、自分の聞きたい理屈しか聞かんもんやきのう」「率直に怒ったり泣いたりするのは気持ちの自浄でもあるのだ。マイナスの衝動を吐き出せば衝動は外へ逃せる。押し殺しても感情はなくならないのだから、外へ出られなければ中で荒れ狂うだけだ」「個人対個人の関係が絶対じゃない。たとえ親子関係だって何かの行き違いで明日どうなってるか分からない。個人との関係ってのはそういう不安定さを常に孕んでる」のあたりは心に重く響く。


人の世の関係性についても「現実の事件ではどこからどう見ても絶対悪いのが一人だけいるなんて簡単で幸せな話は滅多にない」「同情売るつもりの相手から同情買ってちゃ相手の思うつぼだよ。いくらでも買わされる」のあたりは鋭い抉り込みだと感じる。


間違いとの向き合い方も、重い。「ごまかそうとすればするほど、後の揺り戻しはひどうなるわね」「間違うたことは間違うたと認めるしかないがね。辛うても、ああ、自分は間違うたにゃぁと思わんとしょうがないがよ。皆、そうして生きよらぁね。人間は間違う生き物やき、それはもうしょうがないがよね」「間違うことをごまかしたらいかんがよね。次は間違われんと思いながら生きていくしかないがよ。誰かを巻き込んだら、そらぁ、謝るしかない。許してもらえんかったら、それは仕方がないわね。許してもらえんようなことをしたがやと、やっぱりそれも思い知って覚えちょくしかないがね」くらいに達観して、その観点に立てればよいのだが…


そろそろ、中年から老年に向かっている身としては「年寄りに適わないのはこういうところだ。何も賢しく意図しない言葉でふと誰かを救ったりする。それはその年輪が言葉に力を与えているのだろうが。これは若い者にはおいそれと真似できない」「自活しているから偉い訳ではない、年を取っているから偉い訳ではない、経験があるから偉い訳ではない、ただ、大人であることが凄い」そんなジジィになりたいものだ…


とにかく面白いので、ぜひ、一読をお薦めしたい。