世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】金井壽宏、岸良裕司「過剰管理の処方箋」

今年8冊目読了。神戸大学大学院経営学研究科教授と、ゴールドラットコンサルティング・ディレクターの筆者が協力し、「自然にみんながやる気になる、過剰管理への対応」を理論と実務から解説していく一冊。


畏敬する先達がFacebookでシェアされていたので読んでみたが、これが読みやすくてかつ重厚な中身、という非情に優れモノ。イラストも絶妙で、理解を助けてくれる。


「プロジェクションとは未来に向けて企てをすること」で、「特徴は、第一に目標がわかりやすいこと、第二にメンバー構成が目標に合致している、第三に有期限である」ため、メンバーが一皮むけやすいにも関わらず「プロジェクトが始まってしばらくしたらすると、現場は①理不尽な要求に対応する苦労②予期せぬ問題に対処する苦労③納期を守る苦労、の三重苦にまみれていく」「計画段階で『萎えるやる気』、実行段階で『失せるやりがい』、振り返り段階で『抜けるはりあい』という出口のないトンネル」と、あるあるな状況を説明したうえで「プロジェクトを考えるにあたっては、『タスクを行うのはひとである』という当たり前の現実をあらためて虚心に眺める必要がある」「段取りはプロジェクトの成功の8割を握っている」と、その急所を突く。


理論、実践の両面からの観察が、矛盾をうまく浮き彫りにしている。「よく現場で耳にするのは2つの大きな問題だ。1つは会議や報告書が多すぎるということ。もう1つはコミュニケーションが不足していること。膨大な時間を報告書や会議に費やしているにもかかわらず、本当に必要なコミュニケーションが不足しているという。それはとても不思議なことだ」「一見対立している『管理する』と『現場に任せる』は、それぞれの本当の隠された思いは『ちゃんとアクションを進める』という要望と『現場がやる気になる』という要望からきている」のあたりは、なるほど納得だ。


過剰管理への処方箋としては「①ワクワクする目標を共有すべし②成功までの道のりを共有すべし③責任感を共有し、チームワークで活動すべし④手遅れになる前にお互いに助け合うべし」と平凡な原則を挙げつつも「大切なのは、当たり前のことを精神論ではなく、納得感と共感をもって、自然に無理なく行動に移せること」「うわべの結果を見るのではなく、それがどうやって起こっているかという因果関係のつながりを把握し、それを理解したうえで、本質に取り組め」と斬り込む。


また、上司の心構えとして「例外が生じた時以外は、任せておくという姿勢を管理者がくずさなければ、過剰管理を防ぐことができる」「管理は、本来、目標を達成するために行うべきものだ。それならば、ちゃんとアクションが進められ、目標に向かって進んでいる限り、現場に任せても問題はない」「上司は部下に任せたからといって放任にするのではなく、要望はちゃんと追求する。また、任せる前にはミッションをきちんと伝え、仕事に込められた思いや志を部下に理解してもらって、使命感をもって取り組んでもらう。この2つが丁寧に行われてこそ、『任せて任せず』は成り立つ」あたりは、非常に耳が痛い。留意せねば、と恥じ入るばかりだ。


「心配は悪意から生じるのではなく、善意から生まれる」「頭を使って疲れても、その疲れは良質で、持ち越さないし、たまっていかないが、人間関係にかかわる疲れは、つい蓄積しがちで、割り切ることが難しいので、持ち越してしこりをためてしまう」「達成動機が喚起されやすい状況とは、課題の困難度、あるいはリスクが中程度(つまり成功・失敗の確率が五分五分くらい)の状態」あたりは、納得できる。


「管理職」と呼ばれる立場にある人は、絶対に参考になる一冊。プロジェクトをやたらと組むのは好きではないのだが、その効用をしっかり理解して使えばパンチ力がある、というのも認識を新たにできた。理論と実践、双方に目配りできているのも素晴らしい。お薦めの一冊だ。