世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】中原淳、田中聡「チームワーキング」

今年158冊目読了。立教大学経営学部教授と立教大学経営学助教の二人の筆者が、ケースとデータで学ぶ「最強チーム」のつくり方を提唱する一冊。


中原淳先生の本は、どれも読みやすさに工夫がなされているのだが、本書も「人の学びを促す最もパワフルな要因は、言うまでもなく本ではなく現場における経験。しかし、変化の速い時代において、何とかして他人の経験を通して、間接経験から学び取ることができないか。そのために用意したのが、物語(ケース)と数字(データ)」という信念に基づいて描かれている。


標題のチームワーキングとは「①チームメンバー全員参加で②チーム全体の動きを俯瞰的に見つめ③相互の行動に配慮しあう、というダイナミックなチームのイメージ」と定義。そのためには「①チーム視点:チームの全体像を常に捉える視点②全員リーダー視点:自らもリーダーたるべく当事者意識を持ってチームの活動に貢献する視点③動的視点:チームを『動き続けるもの、変わり続けるもの』として捉える視点」が必要だと述べる。
そして、チームワーキングを生み出す行動原理として「①ゴール・ホールディング:目標を握り続ける②タスク・ワーキング:動きながら課題を探し続ける③フィードバッキング:相互にフィードバックし続ける」が大事だと提言する。


組織が陥りがちな罠としては「①目標が不透明になる②コミュニケーションや相互の関心が希薄化する③やりがい、エンゲージメントが低下する」「意見の足し算と割り算で、チームでの目標が失われる」「思惑のある人が、チーム内で、課題の共有が進まないうちに強引に議論を引き取ってしまう」あたりを指摘。耳が痛い…


目標設定については「経営者や経営陣が持つビジョンとは、多くの場合『曖昧』なもの。それを『具体的な目標』に落とし込み、クリアにしていくのは、現場のひとびとの仕事」と指摘して、あるべき姿として「①全員がコミットする目標を持ち続けている②状況に応じて、目標に立ち返る行動を継続している③(必要に応じて)目標の見直し、再設定をしている」と読み解く。サイバーエージェントのIMPACTモデル「Inspiring:ワクワクするか?Memorable:覚えられるか?Praiseworthy:感謝されるものか?Achievement:成果物が想像できるか?Contribution:貢献につながるものか?Timely:今の目標として適切か?」は参考になるなぁ…


社会的手抜きについても言及。「①チームに対する一人ひとりの貢献が適切に評価されない②たとえ自分が努力してもチームの成果に影響を与えない③他メンバーも手抜きをしているので自分も手抜きして問題ない④チームにいると当事者意識が薄れ、緩んでしまう」という要因を挙げ、「動きながら課題を探し続けるために①『解くべき課題』を見極める②行動(全員アクション)と振り返り(チームリフレクション)で『解くべき課題』の精度を高めていく③社会的手抜きを放置しない」と言及する。


また、日本らしい仲良し信奉デスマーチ「Step1:仲良しの目的化。Step2:個業化。Step3:ブラックボックス化。Step4:チーム視点の喪失。Step5:コケる」はなるほどなぁと思う。これを打破するのはチームフィードバックだとし「①チームの目的を共有し続ける②チームのフィードバックに関するグラウンドルールを設定する③1対1で話す機会を作る」と処方箋を打つ。


中原先生の洞察が優れているのは、組織が動的なものだと捉え、現代においては目的も変化し続ける前提に立っているところだと感じる。そして、その中で「『働き甲斐』や『モチベーション』など、人についての問題は、結局のところ、『労働時間の短縮や働き方の柔軟化』『職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化』など、『半径3メートルから5メートル位で起きている職場の問題』を地道に解決していくしか方法はない」という指摘は本当にそのとおりだなぁ。


コロナ禍の2021年においては「リモートワークは、通勤時間を減らすことができたり、生産性を上げることができる一方で、お互いに仕事をしている様子やプロセス、組織が掲げる目標が『見えなくなる』危険をはらんでいる」の指摘も十分に認識する必要がある。


とにかく、読みやすい割に中身が濃い、といういつもの「中原イズム」爆発。これは読むべき本だ。