世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】神林長平「戦闘妖精・雪風<改>」

今年159冊目読了。「言葉」「機械」などを重層的に扱う人気SF作家が、地球と異星体との戦いを通じて、人間というものを描き出すSF小説


変なタイトルの本だなぁ、と思っていたが、読んでみたらこれがまぁ面白い面白い。圧倒的な筆致に、一気に引きずり込まれて読み切ってしまった。


ネタバレを回避し、心に残った部分を書き出してみる。


戦いに関連して「人間の直観は、精密ではないが正確だよ。めったに故障しない」「いい武器を持っている者は絶対有利だが、有利すなわち勝ち、ではない。宝の持ち腐れという言葉もあるし、要はそれをどう使うか、腕次第だ、人間の。戦いには人間が必要だ」のあたりはなるほどと感じる。そして、恐ろしいことに「自分が死んだあとでだれがどんな顔をしようと、自分には関係ないではないか」「人間が所有できるのは自分の心だけだ」などは、極限状態をイメージすればそうなのかもしれない。もっと言えば「地球が異星体に占領されるとき、それでも最後まで残っているのは、民族間の偏見なのだ」というのも、そうではないかと空恐ろしくなる。


無慈悲に徹するパイロットが、操る機体・雪風について「おれは雪風以外は信じない。フェアリイのマークをつけた機も、准将の階級章をつけた人間も、雪風が敵と判定したらトリガーを引くのをためらったりはしない。それが戦争ってものだ。考えていたら殺られる。」「これだけ自分は雪風を必要としているのだから、彼女もこんなおれを見放すわけがないと、不合理だったが、零はそう信じた」と信じていることに対して「雪風は恋人なんかじゃない。娘だ。彼女は成長した。いつまでもおまえの言うなりになっていないぞ。覚悟しておけ。おまえはいずれ、雪風にとって邪魔者になる。無理解で馬鹿な父親など無用だ」と喝破される様は、娘を持つ父としては身につまされる…


人間という存在についての「人間は一人では生きられない。仲間たちから疎外されたら生きてはいけないのだ」「人間的であるということは、他者との交わりを大切にするということでもある」「人間はすべての物事をアナログで処理するほうが楽なようにできている」「人間を人間たらしめてきたのは類推共感能力であるという考え方がある。私にこのような意識や感情があるのであれば、他者にもそのようなものがあるであろうと類推する能力が、脳の発達という進化の過程で大きな役割を果たしたのだという」のあたりの言及は非常に共感できるし、故に逆説的に「コンピュータがときおり人間には想像もつかないことをしでかすのを経験的に知っていた。人間には予想できず理解できないようなことでも、コンピュータの論理ではまったく正常なことが、よくある」ということも起こるのだろう。


酒好きとしては「暖めてやるからな、アルコールはそう言っているようだった。おれの唯一の味方、慰めてくれる友。手放せるものか。」のコメントに頷きつつ(笑)、この本は本当にお薦めしたいところだ。