世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】村田沙耶香「地球星人」

今年53冊目読了。芥川賞受賞作家が、常識に搦め取られた世の中に対して強烈なメッセージを投げかける一冊。


佐藤優が「危ない読書」という本で薦めていたので読んでみたが、なるほどこれは危なすぎる。ラストの凄まじさと荒唐無稽さも、それまでの「常識とは何か?」というきわどい問いかけのおかげで、ついはいり込んでしまう。


ネタバレ回避で、あらすじや結論は書かないが、特に心に残ったフレーズは以下のとおり。


世の中の常識・構造について「私は、人間をつくる工場の中で暮らしている。私が住む街には、ぎっしりと人間の巣が並んでいる。ずらりと整列した四角い巣の中に、つがいになった人間のオスとメスと、その子供がいる。つがいは巣の中で子供を育てている。私はその巣の中の一つに住んでいる。ここは、肉体で繋がった人間工場だ。私たち子供はいつかこの工場を出て、出荷されていく。出荷された人間は、オスもメスも、まずはエサを自分の巣に持って帰れるように訓練される。世界の道具になって、他の人間から貨幣を貰い、エサを買う。やがて、その若い人間たちもつがいになり、巣に籠って子作りをする」「ここは巣の羅列であり、人間を作る工場でもある。私はこの街で、二種類の意味で道具だ。一つは、お勉強を頑張って、働く道具になること。一つは、女の子を頑張って、この街のための生殖器になること」「世界は恋をするシステムになっている。恋ができない人間は、恋に近い行為をやらされるシステムになっている。システムが先なのか、恋が先なのか、私にはわからなかった。地球星人が、繁殖するためにこの仕組みを作り上げたのだろう、ということだけは理解できた」と書くあたりは、寒々しいが事実だなぁ…


常識に立ち向かうことについて「世界に従順な大人たちが、世界に従順ではなくなった私たちに動揺している」「見たくないものを見てちゃんと暮らしている人が、世界にはたくさんいるんだ」「見たか、あの女の眼を!?狂ってる。まるで僕たちを罪人のような目で見て『今なら許してあげる』と言わんばかりだ。何でも僕が、僕であることを赦されなければいけないんだ。まっぴらだ!」「本当に怖いのは、世界に喋らされている言葉を、自分の言葉だと思ってしまうことだ」と書かれているあたりも、確かになぁ…と思いあたる部分があるので、心揺さぶられる。
そして「常識は伝染病なので、自分一人で発生させ続けることは難しい」「常識に守られると、人は誰かを裁くようになる」は、正鵠を射ているように感じる。故に怖い。


恐ろしい読後の不快感があるので、相当に心して読まないといけないが、自分が勝手に信じている「常識」を揺さぶられる恐ろしい感覚は、一読の価値あり。これは凄い本だ…確かに「危ない読書」だな…