世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】リチャード・ドーキンス「利己的な遺伝子」

今年60冊目読了。オックスフォード大学で講師を勤めた英国王立協会、王立文学協会フェローの筆者が、遺伝子の特性とその秘密に迫る一冊。


出口治明がお薦めしているので読んでみたが、なるほど、1976年に記されたとは思えないほどの鋭い洞察に満ちており、とても興味深い。


そもそも、約半世紀前に「遺伝子は自己複製子として長い道のりを歩んできており、私たちは彼らの生存機械なのである」「一つひとつの個体に宿っている遺伝子の組み合わせは短命だが、遺伝子自体は非常に長生きする。彼らの歩む道はたえず出会ったり離れたりしながら、世代から世代へ続いていく。一個の遺伝子は、何世代もの個体の体を通って生き続ける単位と考えてよいだろう」とし「遺伝子の目で見た生物観なしには、たとえば生物がなぜ、自らの延命よりも自らやその血縁者の繁殖成功度に『心を配る』必要があるのか、特別な理由がなくなってしまう」と述べていたのには舌を巻くしかない。


遺伝子というものについて「遺伝子レベルでは、利他主義は悪であり、利己主義が善である。遺伝子は生存中その対立遺伝子と直接競い合っている。対立遺伝子の犠牲の上に、自己の生存チャンスを増やすように振舞う遺伝子は、生き延びる傾向がある。遺伝子は利己主義の基本単位だ」「DNAの真の『目的』は生き延びることであり、それ以上でも以下でもない」と鋭く指摘。遺伝子の特性についても「遺伝子は、利用できるあらゆる手掛かりを最大限活用する方向に淘汰される。遺伝子というものは、現実に与えられた機会をそれぞれに利用する」と書き記す。


では、我々が考え行動するというのはどういうことなのか。「遺伝子は、直接自らの指であやつり人形の糸を操るのではなく、コンピュータのプログラム作成者のように間接的に自らの生存機械の行動を制御している」「意識とは、実行上の決定権を持つ生存機械が、究極的な主人である遺伝子から解放されるという進化傾向の極致だと考えられる」と言われると、とても不思議な感覚に陥る。が、「動物の行動は、遺伝子がその行動を取っている当の動物の体の内部にたまたまあってもなくても、その行動の『ための』遺伝子の生存を最大にする傾向を持つ」と言われると、そんなものなんだなぁ、と思わざるを得ない。


また、種ということについて「同種の生存機械どうしは直接的な形で互いの生活に影響を及ぼしあう。一つには、自種の個体群の半数はつがいの相手になりうる個体であり、子供たちが搾取できる勤勉な親になりうる個体だからだ。もう一つの理由は、同種のメンバーが、互いによく似ており、同じような場所で同じような生活手段を用いて遺伝子を守っている機械であるため、生活に必要なあらゆる資源をめぐる直接の競争相手になるということだ」と触れているのも、さすがだと感じる。
そして、遺伝子が生き延びる(子孫を作る)ということに関して「多くの種では、母親は父親より自分の子を確信できる。母親は、目に見え、触れることのできる卵や子供を産む。彼女には自分の遺伝子の持ち主を確実に知るチャンスがあるのだ。あわれな父親ははるかに騙されやすい。だから、父親は母親程育児に熱を入れないのだと考えられる」「個々の親動物は家族計画を実行するが、しかしそれは公共の利益のための自制ではなく、むしろ自己の産子数の最適化のためだ。彼らは、最終的に生き残る自分の子供の数を最大化しようと努めるのであり、そのためには生まれる子の数は多すぎても少なすぎてもよくない」のあたりは、納得できるし身につまされるし。さらに「有性生殖の帰結の一つが、互いに強調可能な遺伝子群の創り上げる遺伝子カルテルの場としての種という存在なのだ」という見立ては本当にお見事。


利己主義ということについて「動物のコミュニケーションには、そもそも最初から騙すという要素が含まれているのではなかろうか。なぜなら、動物のすべての相互作用には少なくとも何らかの利害の衝突が含まれているからだ」「どのような利他的システムも、本来は不安定だ。それは、利用しようと待ち構える利己的な個体に濫用されるであろうからだ」と指摘。
だが、それに対して「私たちは、子どもたちに利他主義を教え込まなければならない。子どもたちの生物学的本性の一部に、利他主義が組み込まれていることを期待するわけにはいかないからだ」「個々の人間は基本的には利己的な存在なのだと仮定したとしても、私たちの意識的に先見する能力─想像力を駆使して将来の事態を先取りする能力─には、自己複製子たちの引き起こす最悪で見境のない利己的暴挙から、私たちを救い出す力があるはずだ」と指摘しているところは、希望が持てる。


とにかく分厚くて、萎えそうになったが、読み切ってこれは面白かったと断言できる。「直観的に納得できそうなことには気をつけろ」は、自分も留意したい。