世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】デイヴィッド・スローン・ウィルソン「社会はどう進化するのか」

今年157冊目読了。アメリカの進化生物学者で、ビンガムトン大学教授の筆者が、進化生物学が拓く新しい世界観を説く一冊。


話が骨太すぎて、本当に読むのに骨が折れた。が、それだけの価値はあると感じる。もちろん、門外漢の自分が読みこなせたかどうかは全く自信がないが…


進化については「『社会進化論』という言葉は当初から終始一貫して、強者があの手この手を尽くして弱者から巻き上げることを正当化する政策を揶揄するための中傷として使われていたのだ」「およそ10万年前に始まる人類の全歴史は、学習による世代間の情報の伝達によって可能になった、高速の進化プロセスとして見ることができる」としたうえで、進化を研究する4つの問い「①ある特徴に機能があるなら、それはいったい何か?②その特徴の世代を超えた進化の歴史はいかなるものか?③対応する身体のメカニズムは何か?④その特徴は個体の一生を通じていかに発達するのか?」を軸にストーリー展開がなされる。「機能、歴史、メカニズム、個体」という注目ポイントが事例によって説明されると、なるほどなぁと感じる。


個とグループの関係性については「グループ内では利己主義が利他主義を打ち負かす。利他的なグループは利己的なグループを打ち負かす。それ以外はすべて、付け足しにすぎない」「ストレスに満ちた環境下では、個体は適応的な行動を示す」「道徳の強制的な側面は、グループ内の自己利益を追求する破壊的な行動を抑制するために必要になる。ひとたび抑制的な側面が確立されれば、他者につけこまれる恐れを抱くことなく、グループのメンバー同士が自由に助け合うことができるようになる」「帝国は、恒常的にグループ間戦争が生じている地域で成立しているが、グループ間戦争は、協調的な社会の文化的進化のるつぼとして作用する。ひとたび他のグループより大きな規模で強調しあうことが可能な社会が出現すれば、その社会は拡大して帝国になる。すると帝国内で文化的進化が生じ、利己的な行動やさまざまな形態の派閥主義が選好され、やがて帝国は崩壊する」というあたりが心に響く。


グループの特性については「①いかなるグループであっても組織体としてうまく機能するためには、グループ内で利己的で破壊的な行動が生まれる可能性を抑えなければならない②いかなるグループも組織体として機能するためには、生物学的な意味で適切に規制される必要がある③全体の最適化は、それを構成するさまざまな部分を個別に最適化することでは達成し得ない」「中央計画と自由放任の中間にはうまく機能し得る方法、すなわち変異と選択の管理プロセスがある。第一に、達成すべき目標がなければならない。そして変異が起こらなければならない」など、非常に納得感のある指摘をしている。


それ以外にも「理論を用いることで可能になる最善の方策は、考えうる仮説をいくつか立て、立てた仮説を実地に検証することだ」という主張は、頷かされる。


そして、コロナ禍の2021年を生きる身にとっては「私たちの脳と身体は、協調的な他者とともに暮らすべく設定されており、一人で世界に直面しなければならなくなると警戒状態に置かれる」の指摘が重い。ニューノーマルとか騒いでいても、人間は分断されては生きていけないんだよね…