世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】スチュアート・サザーランド「不合理」

今年136冊目読了。サセックス大学実験心理学研究所所長である筆者が、誰もがまぬがれない思考の罠100を解き明かす一冊。


かなり分厚い本で、主張はそれぞれ「なるほどなぁ」と納得できるものの、どれもこれも「過去に見たことのある」話の焼き直し、という感じは否めない。


合理的な選択とは「手持ちの情報をもとにして、目的を達成できる確率が最も高い選択」と定義し、合理的な人生の目標を「人類の生存、最大多数の最大幸福、知識の追求」と提言する。そして、不合理な選択を引き起こす思考プロセスとして「①十分に時間をかけて考えない②脳のキャパシティー不足③統計学の基礎知識の欠如④組織内での利己的行動⑤自己満足のための不合理な思い込み」と読み解く。


人間の陥りやすい罠としては「同じ考えの人達が集まると、反対意見を聞いたり、反証を示される機会が減る」「周囲から誉めそやされていると、自分を厳しく見つめなくなり、柔軟な考えが出来なくなって、誤った判断を下してしまいがち」「自分に対してさえ、自分の誤りを認めない」「当初はあまり気乗りがしなくても、少しずつ慣らされていくうちに深みにはまる」「ストレス、報酬、罰、強い感情は、思考の柔軟性を失わせる」「人は何かを説明するために、うまく辻褄が合う物語を作り上げると、その物語にとらわれてしまう」「自分の判断力に対する人間の根拠のない信頼は、実際よりもずっと正確に過去から未来を予測できると信じ込ませるだけでなく、過去の出来事や以前の記憶をゆがめてしまう」などを明示している。


不合理に陥らない策として「どんなに衝撃的なケースであっても、ただ1つの事例で、物事を判断したり決定したりしない」「命令に従う前によく考え、命令が正当かどうか自分の胸に問う」「他人に追随するなら、それが本当に自分のためになるかどうかよく考える」「グループ内での支配的な考えに無批判に染まらず、自分の頭で考えて、異なる意見も出してみる」「忘れる前に反省する」「リーダーは、メンバーをできるかぎり決定プロセスに参加させ、メンバーと対等に接する」「見かけの特徴にまどわされない」「良くも悪くも極端な結果が出た場合、次に同様の出来事が起こるとしたら、結果はずっと普通に近いものになる公算が大きい、という平均への回帰の原理を肝に銘ずる」などを挙げている。


では、合理的に生きるためにはどうすればよいのか。「先入観にとらわれないようにする」ということを挙げたのちに、「何が合理的かを考えずに、ごく自然に望ましい言動がとれるようになるためには、自分の人格を望ましいものへと形成していくための不断の努力が必要である。その必要性を認めて、努力をすること。それこそまさに合理的な態度というものではないか」と結論付ける。非常に冗長な感があった本だが、それを乗り越えてこの最後の一文に出会うことができただけで、読んだ甲斐があった、と報われる気持ちになった。実際に、そのように生きていきたいものだ。頑張ろう。