世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】新野剛志「あぽやん」

今年184冊目読了。ベストセラー作家の筆者が、旅行会社の空港勤務を命ぜられた主人公と、それを取り巻く人間模様、事件、そしてメンバーの成長を面白く描き出す一冊。


ちょっと間の抜けたトーンのタイトルどおり、少しハラハラしつつもとても楽しく読めるのは、自分が旅行会社勤務であることを抜きにしても、筆者の構想力、筆致のなせる技だろう。


「空港でいくら頑張っても、はなから期待されていない部署では、まともに評価されるはずはない」と思っていた主人公が「キャリアにならないことと仕事としての面白さややり甲斐といったものは別だ。それに、本社から軽視されていようと、会社にとって本当に必要な仕事がここにはある」と思い「現場のことは現場にしかわからない。現場の人間が目を見開いてなされた判断には従うべきだ」とまで考えるようになっていく様は、とても面白い。
他方、「自分自身成長がまるで感じられないのが僕にとってもっかの悩みだ。この一年でスーパーバイザーとして必要な知識は身につけた。しかしそれは馴染みのない部署に来て何もわからないところから始めただけだから、成長とは違う。職業人として、あるいは一人前のスーパーバイザーとしての成長を感じたかった」「ひとはその役職なり社歴なりの仕事を望むものだ。それはいままでの積み重ねぎあってこそだが、現在の仕事が身の丈よりも低いものであったとしたら、次への積み重ねがそこで止まってしまう」という不安もとても共感できるし、多くの人が抱いたことのある感情ではなかろうか。


男女差別ということではなく、「女性って、仕事のやりがいとか給料とかだけじゃだめなんですよね。プラスアルファが欲しいんです。物語、とでもいうのかな。英語を使う国際的な仕事をしている自分、みたいな」「女の子ばかりのオフィスだから、どうしたって摩擦や軋轢は生まれる。プライベートで問題を抱えてる子もいるだろう。今回みたいなありえないようなことは、それらによる心の軋みの表れ。裏にはきっとやむにやまれぬ事情があるもんなんだ。ちょっとした小競り合いだったら怒りもするが、逆にこういうとんでもない事件は、ことを荒立てずにそっとしておいたほうがいいのさ。魔が差したようなもんだから、同じことが繰り返される心配もないしな」のあたりは、女性の多い現場経験がある身としては、凄く理解できる。


そして、散りばめられる「一年でも長く働けるのは、この年になるとわかるけど、ありがたいものだよ」「笑顔って伝染するものなんだよ」「本当にすごいものを見たら誰かと分かち合いたくなる」「ひとはいくつになっても影響を受け、変わることができる」などの名言。これはホントにジーンとする。


それにしても「あぽとは空港のことだ。航空業界、旅行業界では、かつてテレックスを使っていた名残で、アルファベット三文字で事物を表すことが多い。旅客はPAX、航空券はTKT、ホテルはHTL、そして空港はAPO。それをそのままローマ字読みにしたアポは、普段の会話の中でもよく使われる業界用語だ」は知らなかった。テレックス由来なんだ…