世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】宮部みゆき「龍は眠る」

今年168冊目読了。ミステリーの名作家が繰り出す、特殊能力とその苦悩、そして巻き込まれる事件から、人間の深い懊悩を描き出す一冊。


これはホントに深くて面白い。500ページ越えの文庫本だが、一気に読んでしまった。ネタバレは避けたいので、気になったフレーズを抜き書きしてみる。


人間心理についての「人間はときどき、致命的に無責任に-いや、楽観的になる」「男でも女でも、傷ついて優しくなるタイプと、残酷になるタイプがいるそうだ」「一度期限を切られると、人間はやはりそれに寄りかかってしまうものだ。期限が過ぎれば、どうしても気が弛む」のあたりは、とても共感できる。


脳と記憶についての「過去の経験ていう、比べる対象がなかったら、そもそも『考える』なんてできませんからね。そういう意味では、脳には『今』なんていう時間はないんです」「記憶って、映像ですよ。混沌としてはいるけど、すごく鮮明だ」「言葉に出して話すとね、記憶って再構成されるんだ。で、再構成された形で、また保存される。だから、また次の機会に記憶を呼び起こすときには、その再構成された形で出てくるんだ」もまた、なるほどなぁと思わされる。
他方「過去には小細工が利かん。絶対だ」「信じてやりたい、などと逃げてはいけない。そんなふうに思うのは、彼らに本当に騙されていた場合、あなた自身の面目を救いたいからでしょう。こっちにもその気があったんだ、まったく足をすくわれたわけじゃないと、自分に言い訳したいからです。だが、それでは駄目だ。信じるか、信じないか、あるいはまっまくデータを集めるだけの機械になりきって、すべての予断や感情移入を捨てるか、どれかに徹することです」という対処法はすごい。なかなかできないことだ。


ラストも、心に響く。「我々は身体のうちに、それぞれ一匹の龍を飼っている。底知れない力を秘めた、不可思議な形の、眠れる龍を。そしてひとたびその龍が起き出したら、できることはもう祈ることしかない。どうか、どうか、正しく生き延びることができますように。この身に恐ろしい災いのふりかかることがありませんように。私の内なる龍が、どうか私をお守りくださいますように-ただ、それだけを。」


余談ながら、子を持つ親としては「親だから子供をどうにか導いてやれるはずだなんて考えたら駄目。あの子はあの子の決めた通りにしか進めないんだから」のフレーズは心に刺さった。


とても面白く、スリリング。ぜひ、一読をお薦めしたい。