世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】君塚直隆「立憲君主制の現在」

今年169冊目読了。関東学院大学国際文化学部教授の筆者が、ヨーロッパの立憲君主制を紐解きつつ、日本人は「象徴天皇」を維持できるか、を考察する一冊。


SNSで薦めている人がいたので読んでみたが、なるほど読み甲斐がある。ちと前半が冗長で、世界史の知見がないと苦しいだろうが…


そもそも「2017年現在、国連に加盟している国は193に及ぶが、そのうち君主制を採用しているのは日本も含めると28ヵ国」は、知らなかった。不勉強だな。
そして「第一次大戦が全てを変えてしまった。それはナポレオン戦争のように、貴族出身の将校や国民の一部が義勇兵として戦場に赴き、主要な戦闘の後に王侯同士で講和を結ぶという戦争ではもはやなくなっていた。老若男女のすべてが国家総動員のかたちで死力を尽くさなければ勝てない戦争だったのだ。敗北はすべて国家の責任、すなわち当時は国王の責任とされた」「20世紀の大戦争は国家を総動員して戦わなければ勝てない『総力戦』であり、君主は『統合の象徴』としてその輝きを増した。こらは、逆もまたしかりである」のあたりはわかりやすい。


さらに「君主制の存在は、民主主義的に正当化されている場合のみ是認されうる」「君主制の存在を正当化している根拠には、感情的理由づけの①宗教的要素②国父説③正当性、理性的理由づけの④中立的権力としての君主制⑤国家の象徴的具現化としての君主制」「国民の首長としての役割は①国民統合の象徴②連続性と安定性の象徴③国民の功績の顕彰④社会奉仕への援助」の定義はすっかりしていて、納得できる。


「アジアで君主制が存立するための要素は①君主が軍隊からの忠誠を維持できている②君主が宗教を基盤としたカリスマ性の頂点にある③左派を押さえ込めるだけの強力な政治的中道派の存在④国内的に経済発展が見られる⑤海外にその国の君主制を必要不可欠と考える強力な同盟者(国)がいる」というアジアの特性への言及も、単純に欧州の制度とパラレルには見られない点、共感できる。


現代の君主制の難しさについての「首相や外相、外交官、さらには共和国の大統領たちとは異なり、基本的には任期や辞任などによる『中断』が見られず、首尾一貫して自らの姿勢を示し続けていけることこそが、21世紀の『立憲君主』たちにとっての強みになる」「君主制は常にある種の神秘に包まれていなければならず、もし民衆のところに降りていくと神秘も影響力も失う。とはいえ、21世紀の君主たちは、高みに留まっているだけではとても国民の信頼を得ることはできない」の言及は、とても理解できる。なるほどな。


今後の日本皇室について「国民と共にある皇室をめざすためには、時代の変化に即した様々な機器を使い、時代とともに変化する国民のニーズにあった情報を、可能な範囲内でもよいから、国民へと伝えていくことが望まれる」「女性皇族の高齢化とともに、皇族自体の減少という深刻な問題は、ひとりの皇族にかかる公務負担の激増へとつながる」「立憲君主制が安定的に機能していくためには、やはり君主個人にある一定の道徳的規範が必要である。だが、そのことは一方で、国民の側にも寛容さや賢慮が求められることを意味していよう」は、けだし正論。とても共感できる。


皇室問題は、どうしても自国の考えに目が行きがちだが、概観することで視座が変わる。これは良書と感じた。