世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】ジョージ・ボージャス「移民の政治経済学」

今年93冊目読了。キューバ生まれで米国に移住したハーバード・ケネディスクール教授の筆者が、移民が経済・そして国家に与える影響について一般的に語られていることについて果敢に挑戦していく一冊。


筆者自身が移民ということもあり、その主張には力が入っている。移民は経済にプラスになる、でも社会規範を毀損するのでマイナスになる、ということはよく言われるが「大規模な数の移民がある国から別の国に移住したときに、何が起こるかを機械的に予見できる魔法の公式は存在しない」とズバリ答えていることの裏付けを、データを用いながら語っていく。


まず、移民を考えるうえで「移民を単なる労働投入だと見なすことは彼らに対する誤った評価につながり、彼らの経済的影響に関する理解が不完全なものになる」という前提を述べる。確かに、単純な労働力では済まされない、というのはもっともだ。


簡単に移民といえど「多くの人は移住しないという選択を取る。これは移住コストがかなり高いことを示唆している。移住コストが経済利益を大幅に上回り、移住を望む人にも自国にとどまるよう促す」というのはなるほどよくわかる。それでも移民となるのは「平等守備的な所得分布の国(高技能労働者が良い生活を送っていない国)から高技能労働者を惹きつけ、所得格差の大きい国(低技能労働者が貧しい生活を送っている国)から低技能労働者を惹きつける」からだ。そして「移民は、移住先の国民がやりたがらない仕事をやるのではない。移住先の国民が『現行の賃金では』やりたがらない仕事をやるのだ」と指摘する。


また、実際に移住した移民が同化するかについては「一概には言えない。スキルの水準や民族グループの規模、一つの地域に集まる傾向などの要因に左右され、そうした要員が同化のプロセスを早めることもあれば遅らせることもある」「同化にはスキルの問題がある」「移民グループが一つの地域に集まると彼らの同化は進まない」との見解を示す。


では、移民はどのような影響を及ぼすのか。「移民の影響が大きいグループの収入は鈍化する」「低技能移民は税金を使う側になり、高技能移民は税収を増やす側になる」ということであり、「結局、移民とは政府の富の再分配政策の一種に過ぎない」と断言する。
なので、移民政策をどうするか、については「移民を受けて入れている国は一般的には、ある単純な理由から移民の受け入れを支持している。移民は自国民に利益をもたらすと思っているのだ。もしそうではなく、移民が自国民の生活を貧しくする存在だと思われているのであれば、開かれていたドアはすぐに閉ざされる」「結局、どういう移民政策を取るかは、『いったい、あなたは誰の肩を持つのか?』の答えに左右される」と結論付ける。


専門家である筆者が、自ら「移民のように政治的な論争の対象になる問題に対する専門家の意見には、懐疑的になるほうが賢明だ。細部が重要だということは大切な教訓だ。一つの前提条件や一つのデータ操作が異なる結果を生み出す」と述べて「我々は何が正しいかについて異なる価値観や認識を持ち、その多くは個人的な過去の経験や人生の羅針盤となるイデオロギーに基づいている」「自らのイデオロギーをはっきりと明かさない人はよく、経済モデルや統計分析の結果に過度に依存する。彼らは実際には、イデオロギーが背後にある政策目標を後押しするために、多くの対立する研究成果の中から自分に都合のいいものを選んでいる」と指摘する。これは重く受け止めなければいけないと感じる。


「過去の経験は今後数十年を見通すうえではほとんど役に立たず、それを根拠にバラ色の未来や迫りくる大惨事を予測すべきではない」は、本当にそのとおりだと思う。しかし、上記のようなことを考えると、日本は『移民に国を開放すべきか』という議論がなされることが多かったように感じる(コロナ禍で議論は止まっている)が、『高技能労働者をどう流出させないようにするか』という逆側の思考をすべきなことに気づく。本当にまずいよな、日本…考えさせられる。