世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】河合隼雄「影の現象学」

今年152冊目読了。文化庁長官、京都大学名誉教授などを歴任した高名な心理学者である筆者が、心の影の自覚の重要性を鋭く指摘する一冊。


文庫本で読んでみたが、この中身の分厚さは相当なものがある。学びながら読み進める、という感じ。優れた大学の講義を文字で読むような読みやすさは、筆者の高い知識とそれを伝える的確な知性を感じる。


まず、「人間の意識の構造を考えると、善悪、天地、父母、精神と物質などの多くの対立する事象や概念が、それを支える柱となっている」と、意識構造を分析。


そのうえで、影というものについて「われわれは自分の影の問題を拒否するときに、それに普遍的な影を付け加え、絶対的な悪という形にして合法的に拒否しようとする」「人間の心の奥深く存在する普遍的な影は、人々がそれを考え及ばぬこととしていかに否定しようとも突如として人間を捉え暴威をふるうのである」と、その特性を捉えつつ「影とはそもそも自我によって受け容れられなかったものである。それは悪と同義語ではない。特に個人的な影を問題にすると、それはその本人にとっては受け容れるのが辛いので、ほとんど悪と同等なほどに感じられるが、他人の眼から見るとむしろ望ましいと感じられるものさえある」と、単純に悪と決めつけないことの大事さを語る。


誰しも親の影響を受けるのは間違いないが、それについて「親をいろいろと批判しつつ、子供は親と同じか、あるいは全く逆か、のふたつの生き方を選ぶことが多く、親の生き方を適度に修正することは、ほとんど至難のこと」と指摘する。
それはなぜか。「影は自我の死を要請する。それがうまく死と再生の過程として発展するとき、そこには人格の成長が認められる。しかしながら、自我の死はそのまま、その人の肉体の死につながるときさえある」からだ。では、どうすべきか、ということについては「われはれは人間として、決してなくなることのない影を自ら背負って生きてゆかねばならない」以上、「われわれとしては影の死や自分の死を安易に期待するよりは、それが死ぬほどの苦しみを与えるものであっても、影との対話をつづけてゆくほうが、より建設的である」と述べる。


意外な気づきをくれたのは「非日常の世界から見れば、日常の世界は魂を失った堕落の世界であり、日常の世界から見ると非日常の世界は破滅への道と見える」「日本人は自我と影の共存を許容し、その『かげり』を楽しんでいるところがあると思われる」のあたり。さすがの分析だなぁ。


個人的には「中年にさしかかったとき、人生の前半と後半では生き方の意味が大きく変化することが多いが、あなたもそのような大切な時に今ぶつかっているのだろう」「自分の欠点に直面することを避けては、人格の改変はあり得ない」のあたりが、アラフィフとしては切実。ここは意識したい。


年代に応じて読み方も変わってくるだろうが、これは必読の書と言えるだろう。