今年103冊目読了。茨城大学准教授の筆者が、加賀藩御算用者の幕末維新をその緻密な家計簿から読み解く一冊。
映画化されても見向きもしていなかったのだが、この本は実に面白い。「御算用者」という会計係を務めることで、階級主義の穴である「実力主義エリア」に入り込んで力をつける一族の実態をこと細かく分析しているところが興味深い。何より、イメージ優先で「江戸の武士はこんなもんだろう」と思い込んでいる常識をいちいちひっくり返してくれるのが「事実って、知らないもんだなぁ」と感嘆する次第。
そして、この一族が明治維新を迎えるにあたり、親族含めて「勝ち組」「負け組」に分かれていくあたりも、時代のうねりを感じる。そして、その結末から、筆者が導きだした「大きな社会変動のある時代には、『今いる組織の外に出ても、必要とされる技術や能力をもっているか』が人の死活を分ける」との一般則は、本当にそのとおりだと思う。現代社会においても、まさにこれと同じことが言えるのではなかろうか。
「人間は忘れ、記憶を書き換えていく生き物だから、その場で記録をすることは大事」「イメージで作り上げた『こうなんだろうな』という感覚は、後知恵であり、全然違うことが多い」ということを学ぶこともできる良書。本当に、楽しく興味深く読めた。