世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】上杉和央「歴史は景観から読み解ける」

今年96冊目読了。京都府立大学文学部准教授の筆者が、「歴史と地理の交差点に立ち、全体を見渡す学問」として歴史地理学的見地から景観を見直すことを提唱する一冊。


正直、中身がマニアックすぎることは否めない。だが、それなりにポイントとなる主張は納得できる。例えば「日常生活の周りには知的好奇心を刺激する景色にあふれている」「知的刺激の『種』は、毎日の生活のなかにあふれている。その種に気がつくかどうか。そこが分かれ目。気がついてさえしまえば、あとは水をやり、育てていけばいいだけ」のあたりは、歴史地理学云々ではなく全てに言えることだろう。


風景と景観の違いについては、筆者は「風景は人々の共感の中に立ち現れるのに対して、景観は人々の共有する捉え方の中に立ち現れる」と定義する。


そのうえで「景観を見ていくとき、その全体を考えることもとても重要なことだが、それと同時に、構成要素それぞれについて、特徴や変遷を丁寧に追いかける事が必要となる。そうした『個』をとらえることが、結果的に景観全体の理解を深めることにもつながる」「文化的景観の価値は、自然や歴史、それから生活・生業といった多面的な視点から地域を総合的にとらえることで浮かび上がる」と、景観の見方・理解の仕方を提唱する。


正直、全体的にあまりにも微細な議論が多くてちょっとうんざりする本だが、「あらゆる道はそれ自体が歴史を有しており、また地域の歴史を示すものだが、それは人や物、情報が行き交ってはじめて維持されるもの」のあたりは核心を突いていると思うし、何より筆者の「自分の『当たり前』は万能ではない、ということには自覚的でありたい」という姿勢には共感する。


あまりお薦めするような本でもないが、上記主張は納得。そんな感じの本