世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】夢枕獏「上弦の月を喰べる獅子」

今年14冊目読了。ベストセラー作家の筆者が、螺旋に取り憑かれた主人公の数奇な体験を通じ、世の中や死生観を揺さぶる一冊。


500ページ以上、ハードカバー二段書きで、最初はしんどく、「読むのやめるかな」とも思ったが、少し読み進めるとグイグイ惹き込まれていき、一気に読み上げた。螺旋蒐集家と宮沢賢治の複雑な絡み合い、仏教知識を張り巡らせた展開。よくこんな小説を着想し、そして書き上げたものだ。感嘆するしかない。


人間の迷いについて、気になったフレーズは「正しい問の中には、答が含まれている。真に正しい問は、答そのものですらあるのだ」「業を持った空間が、物質である。縁を持った時間が、物質である。すなわち、業を持った時間もまた、物質である。縁を持った空間もまた、物質である。それはつまり、業と縁とが同じものだからである」「人の肉の裡に生ずる、あるいは人の肉に存在するあらゆる業を、肯、と肯定していく」のあたり。


人間真理については「何故、そこにおまえがいるのか。問について答えるとは、存在とは何かについて答えることだ。真理について答えることだ」「混沌というものの内部に、この宇宙のあらゆる可能性が含まれているかわりに、この宇宙のあらゆるものの内部に、混沌が存在する」「三本目の足というのは、般若、すなわち覚醒に至るための智恵のこと」あたりを噛み締めたい。


そして「どんなに逃げたくても、まず、逃げないこと-それをぼくは決めたのだった」という決意を持って生きることができているか。問いを投げかけてくる良書だな、これは。ホントに読んで良かった。


…そうは言いつつ、実は、機動戦士ガンダムの激戦地「ア・バオア・クー」に元ネタがあったこと(本の途中で出てくる)に、一番の衝撃を受けたのだが(苦笑)。