世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】藤井保文「アフターデジタル2」

今年87冊目読了。株式会社ビービッド東アジア営業責任者の筆者が、人がその時々で自分らしいUX(ユーザーエクスペリエンス)を選べる時代へ移行することを推奨する一冊。


前著「アフターデジタル」が素晴らしかったので、こちらも読んでみた。往々にして、この手の本は二作目がレベルダウンするのだが、「時流をつかまえる」という特性ゆえか、この本は十分に読みごたえがあった。


アフターデジタル時代の基本的な考え方として「UXを議論しないDX、顧客視点で提供価値を捉え直さないDXは、本末転倒である」「データやテクノロジーを正しく理解し、正しくビジネスに活用することでサステイナブルなビジネスと顧客関係を両立させる『能力』と『方法論』が必要になる」「日本のDXは、『リアルを中心に据えて、デジタルを付加価値と捉える』という『ビフォアデジタル』的な考え方に根差している例がほとんど。『店舗でいつも会えるお客様が、たまにアプリを使ってくれる』といったイメージ。このリアルとデジタルの接点の主従関係を逆転させて考える必要がある」などを提言する。これは、今までの思考回路が一切通用しなくなる(むしろ害悪になる)ということを物語る。


ユーザー側の行動特性については「『便利か、楽か、使いやすいか、楽しいか』といったUX品質が他のサービスよりも良いかどうかが最重要」「ハイタッチ、ロータッチというリアル体験で新たなベネフィットを提示されると、よりロイヤルティーが高まってアプリを引き続き利用したり、新たな機能を使い始めたりする」「人を動かす力や行動を規定したり変えたりする力は『法』『規範』『市場』『アーキテクチャー』の4つ」などを挙げる。


リアルとデジタルの捉え方については「感動的な体験や信頼を獲得するといったことは、デジタルよりもリアルのほうが得意。リアル接点は『今までよりも重要な役割を持つが、今までよりも頻度としてレアになる』と捉えるのが正しい」「属性データの時代は『人』単位で大雑把に捉えていたが、行動データの時代では、人を『状況』単位で捉えることができるようになり、人間の自己認識や社会における人の在り方にこれまで以上に近づくことができる」「最適なタイミング、コンテンツ、コミュニケーションを捉えて価値提供するには、ユーザーの置かれた状況を把握してそれに対する解決策や便益を提供し、ユーザーと定常的な接点をなるべく高頻度に持つ必要がある」「『リアル接点を軸に、デジタルをツール的に扱う』という従来型から『デジタル接点を軸に、ユーザー状況を捉え、リアル接点をツール的に扱う』という考え方に変化している」と述べる。まさに、頭の発想を転換する必要があるんだろうな。


この時代に企業が念頭に置くべきことは「ミッションがすべてを規定する」「『売ること』『成約させること』にフォーカスするのではなく、顧客にずっと寄り添うことを重視することで、他社を圧倒し、人が人を連れてくるというモデル」「サービスの利便性や世界観が優位性を持ち、商品の購買がサービスのジャーニーの中に埋め込まれていく状態が進んでいる。これは『コマースの遍在化』」「DXを行う企業は、まずシステムの先行導入やビジネスモデルの変更を考えてしまいがちだが、顧客との関係性の変化を捉えて価値を再定義することは何よりも率先して行われるべき」「高頻度接点の検討は、コア体験とセットで考え、『コア体験に隣接する領域』で高頻度接点を作ることが肝」などが挙げられる。これまた、既存の延長線上とは全く異なる世界だ…


UXについては「UXとは、ユーザー、ビジネス、テクノロジーの3つがそれぞれ関わり合うときに生まれる体験・経験である」「行動データを活用してUXをより良くしていくには、大きく分けて『①ユーザー側の体験向上』『②ビジネスプロセス側の効率向上』『③双方を助ける付加価値』の3つのパターンがある」とする。
そのうえで「UXの精神としては①テクノロジーとUXによって、人の行動を変えうる『アーキテクチャー』を設計していることを自覚する②これを悪用することは、テクノロジーによる社会発展を止めることと同義であると認識する③データは金儲けではなくUXに還元し、ユーザーとの信頼関係を作ることを最優先する④『多様なジャーニーの中から最適な生き方を常に選べる』という社会の中での選択しとして自社を位置づけ、新しい世界観(コンセプト)を持って事業・サービスを構築する」「重要なのは、『状況』を『出来事』として捉えるのではなく、『こんがらがった構造やシステム』として理解する。そして『不幸せな状況』のどこをどのように変えたら、幸せなサイクルを生むことができるかをひたすら考える」「『なぜそのような行動をしたのか』『なぜ行動に違いが出るのか』という理由と状況を考え、想像し、理解することで、提示するソリューションは全く異なり、本当にターゲットにすべきユーザーたちに向けたUXが企画でき、成果も出るようになる」と述べる。


人とテクノロジーの関係は「人が行う業務は『ユーザーの状況理解を基に、今までにないものを追加すること』であり、具体的には『新機能の追加』『新たなコンテンツ作り』『サービス上の導線変更』『新しい自動化条件の追加』」「テクノロジーの役割は①ユーザー行動のパターンや状況分類の整理・提案②仮説や施策結果のチェック」となる、と整理する。


「企業論理・企業都合によって実現できていないといった現状を打ち破り、UXを中心に置いてすべてを設計し直さなければならない。それが『OMO(Online merges Offline)を実現する』ということであり、だからこそ実現した結果、強い競争力を持つ」「リアルビジネスのプラットフォームというよりは、同じ絵を作り上げるエコシステムのように見ている」「アフターデジタルとは『
UXの視点から社会変化を見直す』という試み」という世界が、立ち現れようとしている。その変化を起こす側にいないと、生き残れない世界。面白いが、乗り遅れる恐怖もある。やはり、この本は秀逸だと感じる。