世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】マリア・レッサ「偽情報と独裁者」

今年9冊目読了。ノーベル平和賞を受賞したフィリピンのジャーナリストである筆者が、SNS時代の危機に立ち向かうことを力強く提唱する一冊。


とても分厚い本だが、フィリピンが独裁者に占拠されていく様、そしてそれにソーシャルメディアが恐ろしい役目を果たしていることがまざまざと浮き彫りになっていて、一気に読んだ。これは目を背けてはいけない。


筆者の基本価値観「法律を盾に、正義の名前を借りて行われる暴政以上に非道なものはない」「記憶がいとも簡単に書き換えられてしまう、過去のなかのいまこの時、あなたが何をするかが重要だ。真実のために、あなたは何を犠牲にしますか?」「沈黙したまま、周囲に迎合しているだけでは何も変わらない。声をあげることこそ、何かを作り出す行為」は、本当に心揺さぶられる。
やるべきこと「1)つねに学ぶという選択をせよ。2)恐怖を受け入れよう。3)いじめっ子に立ち向かう(『沈黙は共謀と同じ』)」「重要なのは、成長し続けることなのだ」も、言うのは簡単だが、実際にやっている筆者だからこそ心に刺さる。


独裁者とその取り巻きについての指摘「独裁者の戦術は、軍や、反軍事組織の勢力が、民主化運動に潜入し、運動を骨抜きにしてから暴力を扇動する」「怒りと憎しみは、道徳的憤怒とひとつになったとき、暴徒の支配に変化する」「無限に繰り返された嘘は、ある問題についての大衆の見方を変える。世界の指導者たちは、ソーシャルメディアの個人ユーザーを通じて、権力闘争を有利に進める方法を発見した」「権力を重視する人々は、ここぞという正念場で責任を回避しようとする。何より助けが必要とされる場面で、支援を引き上げる」は、実際に戦っている筆者の言葉なので重みが強い。


それに立ち向かうために「透明性、説明責任、一貫性は、機能する民主主義を構築し、独裁者のカルト的な力に抵抗するうえで欠かせない」「ジャーナリズムがあるからこそ、事実は生き延びられる。しかしそれには共同体が応えなくてはならない」「独裁者に立ち向かうには、正直になり、鎧を外し、相手の立場になり、感情に流されず、恐怖を受け入れ、善を信じるのだ。チームを作り、自分の影響力がおよぶ範囲の足固めをする必要がある。明るく輝く点と点を繋いで、網を編んでいこう」と述べるところは本当にそうだが、やるには勇気が必要だなぁ…


ソーシャルメディアとテクノロジーについて「どういうわけか、テクノロジーのおかげで、私たちは時間を節約できるようになると同時に、時間を奪われてしまった」「偽情報に操られるのは、たいてい、十分な教育を受けておらず、インターネットの仕組みにあかるくない人々」「報道機関はテック系企業に取ってかわられ、テック系企業は、事実・真実・信頼を守るという門番の役目をほぼ全面的に放棄している。これらの企業は権力と手を結ぶことを歓迎した。そうすれば市場へのアクセスと成長が保証されるからだ」「ソーシャルメディアにかぎらず、現代社会におけるあらゆるテクノロジーの干渉は、『客観性』よりも『センセーショナリズム』を好むように私たちを条件付けしていく」「嘘は、そのあとで行われるファクトチェックよりもはるかに拡散される。そして、嘘が暴かれるころには、嘘を信じる人々はたいてい自分の意見を変えようとしなくなっている」と触れているところは、自分が組み込まれてしまわないように留意したいところ。知っていないと巻き取られてしまう。


フェイスブックの恐ろしさについて「フェイスブックの言動は3つの前提が下敷きになっている。①情報は多ければ多いほど良い②情報は速ければ速いほどよい③悪しき行いは、フェイスブックのより大きな目標(金を儲けろ)に資するのであるなら、許されるべきである」「『より多く』『より速く』という考え方に内在する危険が、私たちをディストピアに導いた。私たちの心はがらくたであふれかえり、思考の明晰さは失われ、集中力は散漫になり、集団としての考えより個人の考えが優先されるようになった」「フェイスブックは、プロパガンダの広告塔にプラットフォームを提供して、暴言を吐き散らかすことを可能にしたばかりでなく、彼らを優遇した。なぜなら、怒りこそが、フェイスブックが収益をあげるからくりの伝染性通貨だからだ。暴力がフェイスブックを金持ちにした」は、実際にフェイスブックを使っており、裏切られた筆者の強い思いを感じる。そして、こんな企業が様々なデータを押さえていることに恐怖を感じる…


では、どうすればよいのか。筆者が提唱する「感情を揺さぶり、すぐにでもシェアしたり、行動に移したくなったりする投稿を読んだら、心を落ち着かせよう。速くではなく、ゆっくり考えよう」「弱みをさらけだせば、最強の絆と、心を奮い立たせる可能性が作り出せる」「正直であることは、自己評価、自己認識、他者への思いやりの深さを知るところからはじまる。この世であなたがコントロールできるのは、自分だけだ」ということを実践できるか。難しいが、やるしかない、ということか。


がんと闘病する親友の言葉「あなたが生きた一日は、決して繰り返されることのないあたらしい日。だから、自分に残された日々を大切に過ごして欲しい」は、本筋ではないが非常に重い。