世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】ルトガー・ブレグマン「Humankind 希望の歴史(上下)」

今年71・72冊目読了。オランダ出身のジャーナリストが、人類が善き未来をつくるための18章をまとめ上げた本。


いろいろな話題が出てきて、「そういう見方もあるのか!」と驚くことばかり。これはかなり野心的な本で、確かにこうであれば未来に希望が持てると感じる。


筆者はそもそも「ほとんどの人は本質的にかなり善良だ」「大災害は人びとの善良さを引き出す。災難が人々を襲うと、自発的に協力の波が起きる。しかし当局はパニックに陥り、新たな災難を引き起こすのだ」と、人の善良さについて確信を持っている。


人間が、ニュースが伝える破滅や憂鬱さに影響されるのは「一つは、良いことより悪いことに敏感なこと。もうひとつは、手に入りやすい情報だけをもとに意思決定する傾向があること」。それにより「心にとってのニュースは、体にとっての砂糖に等しい」ほど有害になる。


人間の特性として「数万年の間、良い人ほど、多くの子どもを残した。人間の進化は『フレンドリーな人ほど生き残りやすい』というルールの上に成り立っていた」「結局のところ人間は超社会的な学習機械であり、学び、結びつき、遊ぶように生まれついている」「人間は、他者との一体感と交流を何より欲する。わたしたちの体が食物を渇望するように、わたしたちの心はつながりを渇望する」と、結びつく事への本能的な意図を読み解く。


では、なぜ善良な人間はこんなに邪悪になったのか。筆者は「定住と私有財産の出現で、1パーセントの人が99パーセントの人を抑圧し、口先のうまい人間が指揮官から将軍へ、首長から王へと出世した。こうして人間の自由、平等、友愛の日々は終わった」「なぜ人間は、狩猟採集という気楽で健康的な生活を捨てて、農耕民としての苦しく難儀な生活を選んだのだろう。最初の定住はおそらく、土地があまりに魅力的だったからだ。祖先たちに予測できなかったのは、人間の数がいかに増えるかということだった。では、なぜ人間は、かつての気ままな生活に戻ろうとしなかったのだろう。一言でいうと、遅すぎたからだ。食べさせなければならない家族が増えすぎただけでなく、この頃になると人間は、狩猟採集のコツを忘れてしまっていた。祖先たちは罠にはまったのである」と、その過程を読み解く。このあたりは、ハラリ教授の主張と重なるモノがある。


そして、「今では、文明は平和と進歩の代名詞になり、未開は戦争と衰退の代名詞になった。しかし実際には、歴史の大半を通じて、それは逆だった」と、過去がユートピアだったと喝破。「権力が人を近視眼的にするのだろう。トップに立つと、他者の視点に立とうという気持ちが薄れる」「私たちは互いの姿が見えなくなると、相互不信が高まり始める」「仲間意識に駆り立てられ、冷血なリーダーに扇動されて、人間は互いに対して残忍極まりないことをする」と、人間の悪の原因は権力にある、とする。


確かに、筆者の言うとおり「悪事を行わせるには、それを善行であるかのように偽装しなければならない。地獄への道は、偽りの善意で舗装されているのだ」「戦術と訓練とイデオロギーが軍隊にとって重要だが、最終的に軍隊の強靱さを決めるのは、兵士間の友情の強さ」「共感はわたしたちの寛大さを損なう。なぜなら、犠牲者に共感するほど、敵をひとまとめに『敵』と見なすようになるからだ」という主張は理解できる。
そして、「私たちは、どれほど惨めな思いをしてでも、恥をかくことや、社会で居心地の悪い思いをすることを避けようとする」「人間の本性についての私たちの見方は間違った方向に進みがちであり、ジャーナリストは、扇情的な話を売るために容易に世論を操る」というのもそのとおり。


善良かどうかは別として「偏見、憎しみ、人種差別は、交流の欠如から生まれる」「交流はより多くの信頼、連帯、思いやりを生み出す。交流は、あなたが他者の目を通して世界を見ることを助ける。さらに、交流はあなたの人間性を変える。なぜなら、多様な友人を持つと、知らない人に対して、より寛容になれるからだ」という指摘や「自らのアイデンティティを保持できて初めて、偏見を排除できる」「人生において大切なすべてのものと同じく、信頼と友情、そして平和は、与えれば与えるほど、より多くを得られる」というあたりは納得だ。


その他、心に響いた言葉は「勝算がなさそうな時でも、抵抗することにはつねに価値がある」「最もよく遊ぶのは最も賢い動物」「脳は鍛えることのできる器官だ。瞑想によって思いやりを鍛錬できる」のあたり。


人生の指針10箇条として「1:疑いを抱いたときには、最善を想定しよう。2:ウィン・ウィンのシナリオで考えよう。3:もっとたくさん質問しよう。4:共感を抑え、思いやりの心を育てよう。5:他人を理解するよう努めよう。たとえその人に同意できなくても。6:他の人々が自らを愛するように、あなたも自らを愛そう。7:ニュースを避けよう。8:ナチスを叩かない。9:善行を恥じてはならない。10:現実主義になろう。」を最後に述べている。ここまで鵜呑みにできるかか疑問ながらも、一定の参考にはできる本だなぁと感じた。