世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】マシュー・サイド「才能の科学」

今年13冊目読了。作家であり、オックスフォード大学哲学政治経済学部を首席で卒業し、また卓球選手としてイングランド1位を10年近く守った筆者が、人と組織の可能性を解放し、飛躍的に成長させる方法を提唱する一冊。


実際に超一流を体感した筆者だからの主張。もちろん「ホントか?」と思う部分はあるものの、かなり説得力があって引き込まれる。


練習と一流の関係については「最高の生徒とそのほかの生徒を分かつ要因は、目的性のある練習だけ」「良い意思決定には、経験から得られたパターンの意味を解読し、大量の情報を圧縮せねばならない。これは教室では教えられない。生まれつきのものでもない。実際に生きて学ばなくてはいけない。言い換えると、練習を通じてこそ実現できるものなのだ」と主張する。
なぜそう言えるのか、についての「あらゆる複雑な作業において世界のトップに達するには、最低でも10年は必要だ。10年というのが、傑出性を実現するためのマジックナンバー」「驚異的な記憶の技を見るとき、我々は年単位で計測されるプロセスの最終結果だけを見ている。我々に見えないものは、その名パフォーマンスの構築に費やされた無数の練習時間だ」の言及は、確かに普通に暮らしていると盲点だな…


では、どう練習すればよいのか。「意味のある練習を重ねるには、なんであれその分野に献身的に取り組むことを本人が決意しなければならない」「ふつうの人が練習するときには、楽にできることに集中したがる。エキスパートの練習は違う。うまくできないこと、全然できないことをやろうとして、相当量の集中した継続的な努力を行うのだ」「訓練を本当に目的あるものにするには、集中と没頭は重要だが、それだけでは足りない。環境と機会は、すぐれた達成者の成功と必ず深く関係している」のあたりが、単なる練習では辿り着けない境地ということか。
さらに「フィードバックとは、知識の獲得へと駆り立てるロケット燃料であり、これがなければ、どれだけ練習を積んでもその境地には達しない」「成長の気構えを根付かせる唯一の方法は、努力志向のほめ言葉をつねに繰り返すことだ」というのも納得できる。


パフォーマンスについての心理に関しては「一流とそれ以外をしばしばへだてるのは、真実ではないことを信じられる能力で、それがきわめて効果的なのだ」「勝つためには疑念を―合理的なものも非合理的なものも―心の中から取り除かねばならない。これがプラシーボ効果のしくみだ」「自分の弱点と失敗の可能性を現実的に分析し、それにもとづいて決断しなければならない。だがひとたび決断したら精神のスイッチをかちりと入れて、なんの疑いも持っていないかのように実行するんだ」のあたりの指摘が頷かされる。


才能信者に対しては「傑出できるかは才能次第だと思った人は、初期に芽が出ないとあきらめる可能性が高い。でも逆に、才能が将来の成功を左右しないと思うなら、みんな努力を続けるだろう。さらには、自分や家族に適切な機会が与えられるよう、死ぬ気でがんばろうとするだろう」「才能のみを称賛する環境にどっぷりつかった人間は、やっかいな状況に陥ってその自己イメージが脅かされると、その結果に対処できない。自分たちがまちがっていたと認めようとはしない。むしろ嘘をつくことを選ぶ」と、非常に手厳しい。


その他、心に残った言葉としては「属したい、つながりを持ちたいというのは人間にとってもっとも重要な意欲の一つ」「希望をもって旅することは、行先に到着するよりも良いものだ」「知識は知覚に組み込まれている」あたりが非常に興味深い。


また、本書については訳者の要約が非常に秀逸。「この世には遺伝的に決まる『才能』なんてものはない、すべては努力(と運)だ」「才能という発想、生得的に決まった限界があるのだという発想そのものが、人々のやる気を失わせて世界の発達を阻害している」「勉強でもスポーツでも遊びでも、それ自体が楽しく、他人との張り合いではなく自分自身の向上が嬉しいという状態になれば、自然に人はやる気を出して伸びる。何かに取り組む心構えと環境を作り、楽しく頑張ろう」は、勇気を与えてくれる。アラフィフでも、頑張ろうという気にさせてくれる。


あとは、実践あるのみ、か…かえって厳しい本、なのかもしれない。