世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】池井戸潤「鉄の骨」

今年96冊目読了。ご存知ベストセラー作家の筆者が、談合に巻き込まれる建設会社の若者の奮闘を描き、社会に対して問題提起をする小説。


これは面白かった。さすが池井戸潤、寝る間も惜しんで一気に読み切ってしまった。ストーリー展開も、ややご都合主義ながらもスカッとする。読み応え十分。


談合に関する記述としては「ひとつの工事を受注するために、何人もの営業マンたちが必死で工作している。この国が資本主義社会であり、競争がその原理原則であるが故に、それに打ち勝とうと、あらゆる策を講ずる。知恵の限りを尽くして、生き抜くために」「談合が必要悪かどうかは別にしても、ここでの論理は金が全てなのだ。儲かるか、儲からないか。どっちが得か、損か。人間として、あるいは企業としてのプライドや常識はかなぐり捨て、大人たちが、ただ金のために目の色を変える」のあたりが興味深い。
さらに「がむしゃらにコストダウン交渉をして、それでも目標に追いつかない。そのとき疑うべきことはふたつあるんだ。ひとつは自分の交渉力、そしてもうひとつは-計画自体だ」というのも、発想の転換だな。


サラリーマンにとっては「大事なのは、人事異動に文句なんかいうより前に、とにかく与えられた仕事、ガンガンやることじゃない?」「いま仕事がまるでわからないのは実力のせいじゃない。経験がないからだ」「人間であることを忘れたサラリーマンはつまらない部品になってしまう。部品から人間に戻れなくなった者にとって、人生は不毛な瓦礫だ。そしてそういう部品は往々にして腐る」の言葉は非常に心を抉られる。


アラフィフである自分には「人間っていうのはな、目上の前では性格を隠す。だが、年若を前にするとついつい人柄を出してしまう」「しがらみってやつはな、時として人間を小さく、みみっちくしてしまうことがあるのよ」のあたりの言葉が痛い…


2022年、変化の激しい時においては「いまが一番いい。そう思うことが大事なんだ。過去を懐かしむのは構わない。だが過去を羨んではいけない。決してな」「変化を受け入れるのは恐ろしい。いま我々が直面しているのはまさにその変化であって、変化には犠牲が付きものなのさ」のあたりは大事にしたい言葉だ。


中年のオッサンとしては「好きなことをしなさい。そして、気が済むまでやること。そうじゃなきゃ後悔するわ。後からやろうなんて、結局のところ無理なの。人間、今しかできないことっていうのがあるの。それをやらなきゃね」「いままで背伸びをしすぎていた。自分の気持ちに嘘をついていたと思う。でも、本当はもっと自分を大事にすべきだったのだ。自分に正直に生きるべきなのだ」のあたりの言葉は若いころを思い出し、少ししんみりする…