世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】伊坂幸太郎「マリアビートル」

今年79冊目読了。大ベストセラー作家の筆者が繰り出す三部作の二作目。


もともと、この本を読みたくて「グラスホッパー」を先に読んだのだが、なるほど、確かに「グラスホッパー」を先に読むとこの『殺し屋どもの新幹線』の話がとても面白く読めるな。


とにかくストーリーが重厚で、くるくると視点が変わりながらも引き摺り込まれる。面白過ぎて、すぐに再読してしまったほど。きかんしゃトーマスのネタが、実は重要な役割を果たすというのも、すごい伏線回収だ…


ネタバレ回避で、気になる記述を抜き出す。


人間操作についての描写が本当に怖い。「誰かを攻撃したいとか、誰かを利用したいとか考えた時にまず最初にやるのは情報を収集すること」「人は、お金に限らず、いろんな欲望と計算で動いている。梃子の原理と同じで、そういう欲求のボタンをうまく押せば、人間は動かせる」「どうして虐殺のような出来事が起きるのか。人間は、物事を直感で判断するからだ。しかも、その直観は、周囲の人間たちから大きな影響を受ける。人間は、おぞましい決断や倫理に反する判断をしなくてはならない時こそ、集団の見解に同調し、そして『それが正しい』と確信するのではないか」「人は、誰かが怖い、と教えてくれたことを怖がる」「内面の充実は、想像力を強くする。想像力が鍛えられれば、人へ共感する力が強くなる。つまり、それだけ脆くなる」のあたりは、自分が操作されているだろうな、と感じて非常に嫌だ。


また、冷静さを保つためのコメント「どのような言葉を、どのような口調で発するのか、そのことに自覚的にならなくてはいけない」「結局、情報をたくさん持って、自分に都合がいいようにそれを提供できる人間が一番強い」「人間をコントロールするには、まずはそれぞれの自尊心を揺るがすことが効果的だ。次に有効であるのは、彼らに、誰かを裏切らせることだ」「理由や理屈を紡ぎ出すことは、人をコントロールする際の基礎と言えた。理由を話す、理由を話さない、ルールを説明する、ルールを隠す、それによって多くの人が面白いほど簡単に誘導される。翻弄される」のあたりも、非常に怖い。


殺人について「人を殺してはいけないのは、殺人を許したら、国家が困るから。所有権を保護しなくては経済は成り立たない。『命』は自分の所有しているもっとも重要な物だ。まず、命を保護しなくては、少なくとも命を保護するふりをしなくては、経済活動が止まってしまう。だから、国家が禁止事項を作った。そう考えれば、戦争と死刑が許される理由も簡単だ。それは国家の都合で行われるものだからだ。国家が、問題なし、と認めたものだけが許される。そこに倫理は関係ない」と述べるのも、凄い。


中年に対して「どうして中年男はこうも強気なのか。なぜ、偉そうな、さも格下の人間を相手にするような態度を崩さないのか。おそらくその根拠といえば、彼が年長であるという一点しかないのだ。不毛な時間を何百日、長く生きたところで何を得られたというのか」と、アラフィフには厳しいセリフが胸に刺さる…が「口では何とでも言えるがな、実際に、50年、病気にも事故にも事件にもやられずには、生き延びられるかどうかはやってみないと分からねえんだ」に救われる。


読書に関する供述「内面が空洞で、単色だから、すぐに切り替わる。喉元を過ぎれば、すべて忘れ、他人の感情を慮ることがもとからできない。こういった人間こそ小説を読むべきなのだが、おそらくは、すぐに読む機会を逸している」「本を読むことは、人の感情や抽象的な概念を言語化する力に繋がり、複雑な、客観的な思考を可能にした」のあたり、そう至りたいところだが…


この本、2022年にハリウッド映画「ブレット・トレイン」として上映されるらしいが、ここまでの重厚な世界観がどう表現されるのだろうか??