今年74冊目読了。精神科医、医学博士にして公徳会佐藤病院顧問の筆者が、破局への病理を読み解いていく一冊。
新書なのだが、いささか筆者の信念というか想い、情念が強すぎてちょっと読みにくい。もう少し冷静に書いてくれたらいいのだが…
そんな中でも、冷静だしなるほどと思えるのは「『ある』と発想するから、起きたらどうするのか、それをちゃんと考えておきましょうという話につながる。『リスク・マネージメント』ではなく『ダメージ・コントロール』」「殺し合いが怖くないはずがない。だから戦争を経験した軍人ほど戦争を避けようとする。観念で戦争を考えるものだけが、結果的に好戦的な判断を下す」のあたり。
精神科医ならではの脳の読み解きは「大脳皮質の任務の基本が、抑制・制御であり興奮・促進ではないということは重要。余計な刺激がなければ、なるべく静かにしてもらいたい、というのが脳の本音なのかもしれない」「ヒトの脳の弱点は①睡眠をとらないとちゃんと働かない②連続して単独運転していると勝手な空想・妄想、やがて幻想のとりこになる③脳だけじゃ考えることも、感じることもできない」「欲望と感情、すなわち好悪や愛憎抜きの純粋な合理的判断は、脳にはできない。それが限界である」のあたりが面白い。
「結局、人間が最高位中枢だとしている場所は、感覚系から運動系に折り返す場所でしかない。精神のありどころは、そこである」と喝破しているところも、脳を過度に神格化しておらず、好感が持てる。
戦争心理として面白いのは「兵隊は、食い物が十分にないと戦えないというのは当然としても、便所がきちんと整備されていないと士気が上がらない」「裏切られたと感じた友のほうが、激戦を交えた敵よりもずっと強い敵意を抱く」というところ。
本質的には「怨恨感情は復讐心の母で、復讐への欲求が数知れない戦争を生んできた。戦争は感情の産物である」ということが全てなんだろうな。
休息の大事さも「十分な睡眠をとらない脳は使い物にならなくなる。限界は72時間。限界を超えた疲弊はかえって眠りを奪う。次いで、思考力も失わせる。戦闘不能になる」「肉体への軽視、蔑視が少しでも滲む思想はあぶない。知識も思想も、もとをたどればヒトの肉体に淵源を持つ」と触れているのは、精神科医として、不眠が鬱の入り口ということを知り尽くしているからだろうな。
ただ、問題なのは、関係ないところで全く事実と異なる記述が出てくること。「市街が平坦になるほどの破壊から寸分たがわぬ旧観を再興して、ドレスデンは近年『世界遺産』に登録された」「旧国鉄では車掌の方が運転士より偉い」なんて、全然違うじゃん!と思うので、専門的な部分の記述にも、ホントかよ!?という気持ちが湧いてきてしまう。
読むのに疲れる割には、そこまでの教訓はない感じ。まぁ、興味があれば、だろうな。