世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】神林長平「グッドラック」

今年163冊目読了。「言葉」「機械」などを重層的に扱う人気SF作家が、地球と異星体との戦いを通じて、人間というものを描き出すSF小説の続篇。


三谷宏治のお薦めで読んでみて、激ハマりした「戦闘妖精・雪風<改>」の続篇だけあって、面白さがさらに深まっている。文章のかったるさ(回りくどさ)は感じるが、それを凌駕する面白さで、一気に読み進めることができた。


ネタバレは嫌なので、気になったフレーズを抜き出してみた。


自分というものを問うという点からは「わからないのは自分自身のことなのだ。自分が恐れているのは自分なのではないか」「あなた自身の気持ちを、わたしのような他人の言い方に左右されてはいけない。あなたの心は、あなた自身のものなのよ」「重要なのは、どうしたらうまく生きていけるかを問う以前に、自分はどうしたらいいのかが、自分で、はっきりとわかっていることなのだ」「哲学というのは、ようするに、生きている意味を問い、幸福に生きるにはどうすればいいのかを考える学問だ。幸福というのは、時代や個人によって異なる。だから哲学問題には普遍的な答えというのはないんだ。しかし、検証はできる。自分の哲学で納得して死ねるかどうかで、それがわかるんだ」のあたりが気になった。


人間洞察ということでみると「人というのは、思い通りに操れない他人を支配するためにはどんな理屈でもこねるものだ。仲間に引き込めないとなれば、排除しようとする。」「人間というのは環境の申し子ということね。さまざまな組織、環境に適応して生きている。そこから最大利益を引き出し、生き延びようとして奮闘している」「結局同じ態度に接しても相手をよく知っているかどうかでこちらにわき起こる感情も異なるのだ」「事実を知りたいときは自ら体験するのがいちばんだ」のあたりが興味深い。


認識・認知という点では「脳が認識できる相手ならどんなに困難であっても理解する手段があるはずだ、というのはそれこそ人間の幻想だろう。思い上がりだとわたしは思う。真の理解は不可能でも、信ずることはできる。人間には、そういう能力がある」「他人というのは他者であり、他者とは自分とは違う世界を持っている存在のことだ。ただそれを認めるだけでよかったのだ。真の付き合いはそこから始まる」が唸らされる。


日記をつけているのだが、「不確かな記述でも、それがそのまま貴重な情報になる。後になれば、思っていることが変わるかもしれないが、それはそれでいい。それを書き留めておかないと、将来自分の考えが変わっても、どう変わったのか、それでいいのか悪い方向なのか、評価することができないだろう。自分のためだ」は、まさにそれに呼応するような記述。


そして、現代に対する警鐘「現代人は信頼ではなく不信を物事の判断基準にしている。情報量が増大するにしたがってその伝達内容の信頼性は低下するという物理法則のままに、人間同士の信頼関係も揺らいでいるのだ」は、本当にそのとおりだと感じた。