今年98冊目読了。警察庁幹部として、学園紛争と対峙した著者が、東大安田講堂の陥落に向けた72時間を実録として書き記した一冊。
警察エリートでありながら、その精神、行動は豪胆。「外野守備の外事課長でヤジを飛ばしているより、主戦投手となって真っ向勝負の方が、勝っても負けてもやりがいがあるというものだ」「こういう戦時状態では、ショック療法が一番だ。怒れ、うんと怒れ、そして口惜しかったら、一番、次の戦で勝ってみろ」など、よくぞこの人物が東大紛争を打ち破る役に任ぜられたものだ、と痛感する。
そして、当時の学生運動の身勝手さ、軽薄さに対する怒りがふつふつと湧いてくる。かつ、彼らが一切その失敗を総括しなかったが故に、今の日本の若者やロスジェネの苦悩に繋がっているくせ、学生運動をした年代は高度成長に乗っかっておいしい思いしかしていない。非常にやるせない思いだ。これに対しても、著者は「利益共同体化した社会において急速に減少してゆく父権の象徴への郷愁を感じていたのではないか」と分析する。
現代史の戦記物であるが、リーダーシップ論としても優れている。「準備の段階では意図的悲観論者になって最悪に備えても、いざことがはじまったら天祐神助を信じて意図的楽観論者として、必ず成功する、日はまた昇ると自分にいいきかせて目をつぶって頭から突っ込んでゆく」「怪我の仕方、間違えるんじゃねぇよ、隊員たちが火炎ビンや投石で傷つくとき、君は警備本部にいて政治的に、法律的に、マスコミ的に傷つくんだ」「危機が発生して、軍政と軍令との間に裂け目ができそうになったとき、それを非官僚主義的な法三章(漢の高祖が定めたきわめて簡略化した法律)と合目的主義の政治決断で縫い合わせるのがトップの役目だ」など、しみじみ感じ入る。
また、組織論もよくわかる。「修羅場をくぐった現場組は本能的に、安全な後方で実情もわからずに指図する無理解な上層部に反感を抱くから、頭ごなしにやるとこじれるのだ」は、現場という生き物をよく表している。
本筋以外でも、心に残るのは、根石親雄副隊長がのちに署長になれずに(理由は、学園紛争と戦った際の果敢な陣頭指揮での怪我により、右手が上がらなくなって敬礼ができないということ)、それを人事担当に猛然と押し返し、東村山警察署長に無事任じられた、というくだり。
半端なく面白い一冊だった。ぜひ、一読をお勧めしたい。