今年90冊目読了。ベストセラー作家の筆者が、瀬戸内海の島に暮らす息苦しさとそこからの離脱を小説で描き出す一冊。
フェイスブックで畏敬する先達がお薦めしていたので読んだら、やはり良書。いかに人生、周囲の目に絡め取られて自分が自分らしく生きられていないか。それをガツンと思い知らされる小説。
ネタバレ回避で、気になったフレーズを抜き書き。
「ひとくち、ふたくち、酒が通る道順に熱が生まれ、全身が重くなり、逆に意識は浮揚する。『ここではない世界』へ自分を飛ばすためのツールだ」「必要ないものを愛でる。それこそが文化です」
「大人なんて、そんな偉い生きもんやないよ」「うまくいっているときほど気を引き締めろ。人生はそんなに甘くない」「切って捨てられないから血は厄介なのだ。正しさだけですべてを決められたら、どれだけ楽だろう」「ぼくたちは悩み深い生き物だからこそ、悩みのすべてを切り捨てられる最後の砦としての正論が必要」「何かを欲するなら、失う覚悟も必要だ」
「わたしが今のわたしに価値を見いだせない。だから言いたいことも言えず、飲み込んだ自分の不満で自家中毒を起こしている」「愛と呪いと祈りは似ている」
「誰かに遠慮して大事なことを諦めたら、あとで後悔するかもしれないわよ。そのとき、その誰かのせいにしてしまうかもしれない。でもわたしの経験からすると、誰のせいにしても納得できないし救われないの。誰もあなあたの人生の責任をとってくれない」「いざってときは、誰になんて言われようと好きなことをしなさいね。怖いのは、えいって飛び越えるその一瞬だけよ。飛び越えたら、あとはもう自由なの」
「自ら選んだ時点で、人はなんらかの責を負う。他人から押しつけられる自己責任論とは別物の、それを全うしていく決意。それを枷と捉えるか、自分を奮い立たせる原動力と捉えるか。なんにせよ、人はなにも背負わずに生きていくことはできない」
「人はいくつになっても成長するし変わっていく」「変われないことこそが不幸なのだ」
「生まれるとき、人にはそれぞれ与えられるものがある。それは輝く宝石であったり、足首にはめられた鉛の球だったりする。なんであろうと投げ出せず、それはおそらく魂に組み込まれたものなのだろう。生まれて死ぬまで、誰もがあえぎながら己の魂を引きずる」
様々感じ入る言葉がある中で、大事だと思ったのは「過去は変えられないと言うけれど、未来によって上書きすることはできるようだ」ということ。余談ながら、「国は俺たちのためにあるのであって、俺たちが国のためにあるわけじゃない」は、岸田総理、お前が自覚すべきことだぞ!と言いたい。本当にこの国はどうなってしまうのか…