世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】西成活裕「無駄学」

今年28冊目読了。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻准教授の筆者が、仕事の最前線での取り組みに入り込みながら、無駄の削減について考察する一冊。


最初はダラダラと「無駄の定義」がなされ、途中からトヨタ方式ばかりか…と思って読んでいたが、終盤でなかなか深い洞察が出てくる。三谷宏治お薦めだから、駄本ではないだろう、と信じて読み進めて良かった。


発想をすることについて「思考の『飛び』を可能にするのが直観力であり、それは論理の階段を登るのとはわけが違う」「直観力を助けるものとして、無駄という概念が重要な役割を果たす。人間は誰しも無駄を何とかしてなくしたい、という気持ちをどこか心の底で持っている。個人の価値観や感情が入ったこの言葉こそが本当に人を動かすのではないだろうか」という指摘はなかなか面白い。
そして、直観を鍛えるためには「失敗を数多く経験することで直観力が磨かれる。失敗の原因を考えることで自分の思考が是正されていく。そしてこれを繰り返すことでコツが無意識に根を張り、直観で思うとおりに行動しても間違いを犯さなくなってくる」ということだ、という分析は納得。


ムダということについての「全体が見えにくいときには部分に分ける必要があり、しかしそれだけでは全体として無駄がとれるとは限らない。無駄をなくすためには、部分と全体のバランスが鍵になってくる」「資源の価値を損なわない程度に分割すべき」「有効に使われないとは、投入したコスト(お金、時間、労力、資源)に見合うだけの効果が得られないこと」「無意識の無駄にまでメスを入れることで、直観と融合した真のムダとりができる」などの指摘も、なるほどと思わされる。


人間は、どうしてもホメオスタシスが強いので変化を嫌うが、「人はどのようなときに変われるのだろうか。それにはまず思い切って普段と違う行動をしてみるのが良い。特に大声を出すというなは手軽でお勧めだ」「朝の時間を効率よく使うためには、前日の夜に5分だけでもよいから翌日のことをイメージしておく」「直観力は経験によって磨かれる。本で読んだ知識だけでは、知恵は生まれない。知識は頭で覚えるものだが、経験とは体で覚えるものだ。この二つをバランスよく鍛えることで、自分なりの『型』ができあがってゆく」ということでそれを超えていくべき、という提唱は頷かされる。


資本主義に対しての「消費しつづけて成長しなければならないのが資本主義社会」「人間の欲望のコントロールは難しい。質素な暮らしをしなさい、と言うのは簡単だが、実際にそうするのは容易ではない」「長い目で見れば、経済成長というのは確実に無理があるため、右肩上がりでない社会を我々はこれから皆で知恵と力をあわせて構築していかなくてはならない。それが環境問題への最終回答なのだ」という警鐘も、なかなか説得力があると感じる。


幸せということについての「幸せ=財÷欲望」「人はもちろん誰でも幸せになりたいと思っている。そして人によって様々な幸せの形があり、自分が幸せならば他人も幸せ、ということも一般に成り立たない。また、他人を幸せにしようと思って行動しても、心への配慮が欠けているとそれが様々な『無駄』を生んでしまう」「人は、変化と期待をうまく組み合わせれば、その心に大きな幸せを感じることができる」などの指摘は、確かにそうだろうな。なかなか深く考えさせる良書だと思った。