今年128冊目読了。イスラエル情報機関モサドの星と呼ばれた元・敏腕スパイが、波乱の体験をもとに「ハウツー・スパイ」を書き記した一冊。
幾つか、スパイ適性を判定する質問リストがあり、面白い。当然の事ながら、全く適性のない自分でも(苦笑)、人間心理を考えるのにはとても興味深い記述が多く、つい引き込まれた。
スパイの心構えについて「秘密情報部員は違法行為をできるだけ回避すべきであるが、必要が生じたときはいつでも必要なだけそれをする備えがなければならない。」「スパイの備えもっていなければならないものは、運とそれをうまく利用する能力である。」「つねに目を見開き、耳をそばだてていることである。スパイに非番はない。」「どんな偽装を適用しても、役にはまり切れ。」「極端な手段は、極端な場合にのみ用いるべき」
人間が陥る罠として「善意の助言であっても自分の考えや希望にそわなければ聞き入れる人はほとんどない。」「落とし穴は、敵も同じかあるいは似た手段を心得ているという事」「今回はこのままで行こう。なに、うまく行くさーーたいていはそうであろう。しかし、いつかうまく行かないときがやってくる。」
それにしても、個別のエピソードの面白さもさることながら、本当に凄い観察力、洞察力だなぁと驚嘆する。「ほんの少し真実を提供して相手に確かめさせ、それを手の込んだ嘘で飾りたて、間違った方向に導く。これをうまくやると、相手が何もかも鵜呑みにする可能性が大いにある。」「人間はどんなに大きな圧力を加えられてそれに耐えることになろうとも、自分の知らないことはいえない」など、まさにその数奇な経験に裏打ちされているので、重みがある。
スパイ小説なんかより、リアル故によほど面白い。そして、何よりの警句「荒仕事をやるようにいわれたとき、どこまでやる覚悟を決めるか判断するのはあなた自身でしかない」は、スパイか否かに関わらず、社会人が心すべき事だな、と感じた。スパイのみならず、人間心理に興味があれば、ぜひ。