世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】会田雄次「アーロン収容所」

今年127冊目読了。京都大学教授の筆者が、ビルマ終戦を迎えてイギリス軍の捕虜となったことで痛感した西欧ヒューマニズムの限界を書き表した一冊。

〈お薦め対象〉
ヒューマニズムを考えるすべての人
〈お薦め度(5段階評価)〉
★★★★★
〈実用度(5段階評価)〉
★☆☆☆☆

自分の問いは3つ。
『イギリス人の特性とは?』には「目には目、歯には歯、ということがイギリスのやり方の鉄則である。」「イギリス人たちからすれば、植民地人や有色人はあきらかに人間ではないのである。それは家畜にひとしいものだから、それに対し人間に対するような感覚を持つ必要はないのだ。東洋人に対するかれらの絶対的な優越感は、まったく自然なもので、努力しているのではない。」「復讐欲でなされた行為でも、つねに表面ははなはだ合理的であり、非難に対してはうまく言い抜けできるようになっていた。しかも、英軍はあくまでも冷静で、逆上することなく冷酷に落ち着き払ってそれを行ったのである」「読み書きや計算ができないからとおってイギリス兵を馬鹿にしてはいけない。かれらは実に責任感が強い。言ったことは必ず守る」。
『日本人の特性とは?』には「日本軍の、命令には絶対服従というのは、長いものには巻かれろという心理の基礎の上に立っている。」「きたない、ということばが、あるいは卑怯、あるいは悪辣という意味を端的に表現するぐらい、すべての価値を美醜に還元する傾向がある」「日本兵は仕事をやれやれと強制すると反抗してかえって動かなくなる。自信が強いからなるべくおだてて使うとうまくゆく」。
『人生とは何か?』には「自分たちの立場が特殊な際立った暗いものではなく、人類のすべてが経験し、あるいは諦観したり、あるいは反抗したりしながら耐えてきたものなのだ」「人間には種々の型があり、万能の型というものはない。異なった歴史的条件が異なった才能を要求し、その型の人物で、傑出し、しかも運命にめぐまれた人物だけが活躍した。」。

「ヨーロッパ人が、人間と動物との境界をずいぶん身勝手なところで設定する」との指摘は、長い歴史の中で形作られた意識を鋭く突いている。西欧ヒューマニズムなんて、こんなものだ、という著者の主張には、うなるしかない。戦後70年経ってはいるが…

戦争と捕虜生活の残酷さも、まさに体験談として迫ってくる。「無意味で過重で単調な労働の連続は、やがて兵隊たちの反抗心を失わせ、希望をなくさせ、虚脱した人間にさせていった。」「一般的にいって、日本での社会的地位が相当上のものは、泥棒は不得手のものが多い。とくになんにもできぬインテリというやつはつらい。」「帰還はすべてを希望にする。抑留はすべてを絶望にする。」

「多くの人は、才能があっても、それを発揮できる機会を持ち得ず、才能を埋もれさせたまま死んでゆくのであろう。人間の価値など、その人がその時代に適応的だったかどうかだけにすぎないのではないか。」という諦念に、著者の懊悩の極北を感じずにはいられない。割合淡々とした筆致が、却って事実の冷酷さを伝える。一読をお勧めしたい。