世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】笹原和俊「フェイクニュースを科学する」

今年38冊目読了。名古屋大学大学院情報学研究科講師の筆者が、拡散するデマ、陰謀論プロパガンダの仕組みを読み解く一冊。


2016年、ドナルド・トランプ大統領を生んだアメリカ大統領選挙において話題になり、今なお影響力を持っているフェイクニュース。筆者は「フェイクニュースは、ニュースよ内容や伝達の問題としてだけではなく、情報の生産者と消費者がデジタルテクノロジーによってさまざまな利害関係の中で複雑につながりあったネットワークの問題として捉えるべき」と提言する。


フェイクニュースが蔓延する理由として「情報拡散は自分の考えや価値観に一致する情報の場合に起こりやすく、反証する情報は拡散しない」「自分の価値観に合わない情報に出会ったとき、それを無視するだけでなく、自分の世界観にさらに固執する」「喜びや怒りなどの感情は他のものより伝わりやすいため、偽ニュースにこれらの感情が紛れ込んでいると、事実かどうかと無関係に拡散する」と指摘。拡散されやすいニュースは「①受け手の意見や価値観、思い込みや偏見に関するニュース②受け手の感情を刺激するニュース③みんなが評価をしているニュース、の性質を持つ」と、その特徴を分析する。
「私たちは『見たいものだけ見る』そして『似た人とつながり影響し合う』という生まれつきの傾向を持っている。認知バイアスや社会的影響は、社会的な生き物である人間には必要不可欠なものだが、これらの傾向は偽ニュースを容易に信じ共有する行動を誘発する。情報生態系には要素レベルで偽ニュースに対する脆弱性がある」と述べる。


そして、ソーシャルメディア全盛の現代において「エコーチェンバーとフィルターバブルは協働し、私たちが生まれつきもつ認知バイアスや社会的影響の効果を増幅してしまう」「情報化社会に生きる私たちは、膨大な量の情報をほぼリアルタイムで入手できることと引き換えに、『1つのことに集中する時間』を失っている」と警告し、「見たいものしか見えない情報環境ができあがる原因は、人間の認知特性とソーシャルメディアの相互作用にあることを正しく理解した上で、私たちはソーシャルメディアと上手に付き合っていかなければならない」とする。


では、どうすればいいか。「インターネットで目にする情報を評価する際に、証拠、情報源、文脈、読者、目的、完成度を疑ってみる」「メディアリテラシー、ファクトチェック、法による規制などの対策をセットで押し進め、私たち一人ひとりが偽ニュースに騙されない
賢い読者になる、事実を大事にすふ姿勢を社会全体で共有する、規制やプラットフォームによって政治的・経済的動機をくじく努力をするのが賢明」と提言する。


その主張にはとても同意できるし、「現在のソーシャルメディアのほとんどは広告収入によるビジネスモデルで、ユーザーは無料でこれらのサービスを使用できるが、その代償として自分の個人情報を差し出し、ユーザーにマッチした広告を表示するターゲッティングに使われる」「流行は質よりも偶然とみんなからの影響を受けて生まれる可能性があり、質が良いだけでは成功に不十分」のあたりの指摘もなるほどと思う。専門的なデータ分析の詳細まではわからないが、なかなか良書だと思う。