世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】ハンス・ロスリング「ファクトフルネス」

今年130冊目読了。スウェーデン国境なき医師団を立ち上げた医師にしてグローバルヘルスの教授である筆者が、思い込みを乗り越えてデータを基に世界を正しく見る習慣を提唱する一冊。


言わずと知れたベストセラーで、なるほど、それだけの価値はある。非常に興味深く読むことができた。


人間が陥る10の思い込みとして「分断、ネガティブ、直線、恐怖、過大視、パターン化、宿命、単純化、犯人探し、焦り」を挙げる。


人間が陥りやすい考え方として「ほとんどの人が、世界は実際よりも怖く、暴力的で、残酷だと考える」「ドラマチックなものを求めすぎるあまり、ありのままの世界を見ることができず、なにが正しいのかもわからない」「さまざまな物事や人々わ2つのグループに分けないと気が済まず、決して埋まることのない溝があるはずだと思い込む。分断を誇張するのは、平均の比較・極端な数字の比較・上からの景色」「頭が恐怖でいっぱいになると、事実を見る余裕がなくなる」「数字を一つだけ見て『この数字はなんて大きいんだ』とか『なんて小さいんだ』と勘違いする」「ひとつの実例を重要視しすぎる」「『世界は分断されている』という思い込みは、『わたしたち』は『あの人たち』と違うという勘違いを生む。一方『ひとつの例が全てに当てはまる』という思い込みは『あの人たち』はみな同じだという勘違いを生む」というところを指摘する。


考え方の傾向とその対策については「勘違いに気づいてもらうには、その人の意見とデータを照らし合わせてみればいい」「ネガティブ本能を刺激するのは①あやふやな過去の記憶②ジャーナリストや活動家による偏った報道③状況がまだまだ悪いときに『以前に比べたら良くなっている』と言いづらい空気」「理想を実現したければ、ばかげた勘違いのせいで希望を失わないようにする」「意見が合わない人や反対してくれる人に会い、自分と違う考えを取り入れるのが、世界を理解するすばらしいヒントになる」などを挙げる。


ファクトフルネスのためには「話の中の『分断』を示す言葉に気づき、大半の人がどこにいるか探す」「悪いニュースのほうが広がりやすいことに気づき、『悪い』と『良くなっている』は両立しうると理解する」「直線本能を抑えるため、グラフにはさまざまな形があることを知っておく」「恐怖本能を抑えるために、現実を見る。リスクは危険度と頻度の掛け算で決まる」「分類を疑う」「ゆっくりとした変化でも、変わっているということに気づく」「過大視本能を抑えるため、比較したり、割り算をする」「誰かが見せしめとばかりに責められていたら、それに気づく」「焦り本能を抑えるために、深呼吸する・データにこだわる・占い師に気をつける・過激な対策に注意する」など、原則を述べて説明してくれる。


では、現実的にどうすべきか、については「世界をひとつだけの切り口で見てしまう理由は、政治思想と専門知識」「世の中でいちばん悪者扱いされるのは、悪どいビジネスマン、嘘つきジャーナリスト、そしてガイジン」としたうえで「事業戦略に必要なのは、事実を基に世界を見つめ、そこから未来のユーザーを見つけること」「数字がなければ、世界は理解できない。でも、数字だけでは世界はわからない」「物事がうまくいかないときにら、犯人を探すよりシステムを見直したほうがいい。うまくいったときは、社会基盤とテクノロジーという2種類のシステムのおかげと思ったほうがいい」「必要なのは総合的な分析と、考えぬいた決断と、段階的な行動と、慎重な評価」ということを提言する。


コロナ禍の2020年に読むと「世界の深刻な問題を理解するには、問題を引き起こすシステムを見直さないといけない。犯人捜しをしている場合ではない」「恐れに支配され、時間に追われて最悪のケースが頭に浮かぶと、人は愚かな判断をしてしまう」「心配すべき5つのグローバルリスクは、感染症の世界的な流行、金融危機、世界大戦、地球温暖化、そして極度の貧困」とあり、本当にそのとおりだなぁと痛感する。


そして。「わたしたちはデータを使って真実を語らなければならない。たとえ善意からだとしても、拙速に行動を呼びかけてはいけない」「事実に基づいてものとごと見るべき理由は2つ。ひとつは、人生の役に立つから、もうひとつは心が穏やかになり、ストレスが少なく、気分も少しは軽くなる」は、通読してみて納得する。
もちろん、事実をしっかり見つめることは大事だ。しかし、この本で何より大事なメッセージとして自分が受け止めたのは「好奇心があるということは、新しい情報を積極的に探し、受け入れるということだ。自分の考えに合わない事実を大切にし、その裏にある意味を理解しようと努めることだ。答えを間違っても恥と思わず、間違いをきっかけに興味を持つことだ。好奇心を持つと心がワクワクする。好奇心があれば、いつも何か面白いことを発見し続けられる」のくだり。まさに、本書で刺激を受けた「好奇心」を大事に、これからも様々なことを探求していきたい。