世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】半藤一利、秦郁彦、平間洋一、保坂正康、黒野耐、戸高一成、戸部良一、福田和也「昭和陸海軍の失敗」

今年129冊目読了。旧日本軍を内外から知る論客たちが、対談形式によって旧日本軍の矛盾、日本型組織の欠点を抉り出す一冊。


軍隊の特性として「軍隊は、その将校の出身階層が民主的になると政治的になる」「戦争指導者は、やはり政界を含めた外の世界とのつながりがある人でなければ務まらない」「戦争とは、殺した相手の数を競うのではなく、どちらが目的を達成したかによって決まる」「どんなに第一線の将兵が勇戦力闘しても、拙い戦術をおぎなうことはできない。また戦術がいかに巧みであっても、大きな戦略が明確でないと駄目」「なんといっても実戦でものを言うのは、勇気と経験と臨機応変さ」などを挙げる。


軍隊の失敗としては「陸大が参謀を養成するのか、指揮官を養成するのか、明確にしなかったために、中途半端な指揮官意識を持った参謀たちが数多く生まれてしまったこと」「開戦直前、まさに国家の危急存亡のときに『真面目で一生懸命』なだけの指導者(※東條英機)に国運を託さざるをえなかったこと」「英米と戦争をするのに、軍中枢に英米を知る人がいなかったし、知ろうともしなかった」「アメリカという敵はそっちのけで、海軍にとっては陸軍、陸軍にとっては海軍が敵みたいになっていた」「奇道が正道に勝ち続けるのは無理」などを指摘する。


日本組織の問題点として「上の人に能力を発揮されると困るから、能力のない人を上に持っていく」「聞きたくないことは聞かないし、見たくないことは見ない。これも日本型エリートの問題」「日本の組織では、外に窓が開いていない人のほうが出世する。組織の論理に染まっているほうが有利」「手柄を立てれば評価するし、失敗すれば降格させる。降格させれば当然、恨まれるだろうが、それを引き受ける勇気がリーダーには必要。その勇気が日本人には残念ながらなかった」「他人の悪口を言わないというのは美徳に映るのだろうが、活発な議論がないということでもある」「難局に限って、無難な選択のつもりで無能なリーダーを選んでしまう」「現場は高度な技能を持っているのに、中枢の判断力が鈍いのでそれを生かしきれない」「日本人はアイデアはあるし、器用だから非常に凝ったものを作るんだけど、標準化がなされていなくて大量生産には向かないものばかり。経済的な限界に対して合理的に振る舞っていない」「失点をつけたくないために目的を二つ用意する。そのうち簡単なほうだけでも達成すれば目的達成で成功とみなされ、勤務評価にキズがつかない」と、辛辣に述べる。


「単純であるというのは、本質をつかんでいるということ」「ムラの論理は既得権益だから強い。それをくつがえすだけの行動力と説得力、そして勇気を兼ね備えたリーダーをもてるかどうか」という観点は、混迷を極めるコロナ禍の今、痛切に感じるものがある。


軍事好きなら当然面白く読めるし、日本型組織論としても秀逸。対談ものの本は議論が散逸しがちなので、やや苦手なのだが、この本はむしろ多元的視野が得られて、とても面白かった。