世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】佐々涼子「エンド・オブ・ライフ」

今年124冊目読了。ノンフィクション作家である筆者が、最期を迎える人と、そこに寄り添う人たちの姿を通して、終末期のあり方を考える一冊。


人間の苦悩については「病気を前にしたら身がすくむし、ちっぽけな自分にはどうしようもない負の感情が湧いてくることもあるのだ。そして家族はその感情ゆえに苦しむ。本当のところ、それは家族を愛しているか、愛していないか、思いやりがあるか、ないかとは別の問題なのだ」「精神的な痛みは、生きていく上での人生の一部についての心の痛みだが、スピリチュアル・ペインは自分の人生全体の意味がわからないという苦しみ」「医療の選択肢が多いというのは残酷でもあります。誰だって奇跡が見たい。人間の欲をかきたててしまう。医療者側も受ける側も、奇跡が見たいという欲望、わずかな可能性に賭けたいという思いが絶対にある」「本人がやりたいのにいろいろなところでストップをかけてしまう。これが本人のエネルギーを落としている」「この世ですべてが完結すると思うと、あまりに救いがない」と、その事実から問いかけてくる。


生と死、家族については「確実なことなど何ひとつない。もう一度過去に戻って選択をし直すことなどできない。だが、人間とは『あの時ああすればよかった』と後悔する生き物だ」「人は、生きてきたようにしか死ぬことができない」「病気になった理由は?ただな偶然だ。意味などない。それになんとか意味をつけようとするのが人間だ」「私たちは見たいようにしか、他人を見ていない。家族においてはなおさらだ」「他人であれば寛大になれることでも、家族だと、距離が近すぎて感情のコントロールがきかなくなる」「人間はどこかで、自分だけは死なないと思っている節がある」「亡くなりゆく人は、遺される人の人生に影響を与える。彼らは、我々の人生が有限であることを教え、どう生きるべきなのかを考えさせてくれる。死は、遺された者へ幸福に生きるためのヒントを与える」あたりが心に響く。


どのように人生に向き合うべきか、については「なにか行動しようと思えば、軋轢もある。でも、得られるものはそれ以上です」「自分のすべきこと以外は、だれもが『私の仕事じゃない』と言って見て見ぬふりをする。しかし、それでは社会は回っていかんのですよ」「根治を願うのでもない。無視するのでもない。がんに感謝しながら、普段はがんを忘れ、日常生活という、僕の『人生』を生きていきたいんです」「自分の意思を尊重してもらいたいなら、日頃から本人の意思が尊重される関係性を築いていないといけない」「もっと堂々と好きなように生きてもいいのかもしれない。どのみち、誰にも迷惑をかけずに生きることなど不可能なのだから」「命が短いと知ってから宗教に向き合うのは難しい。なるべく早く宗教については学んでおくべきだし、自分の信仰に対する態度を点検しておくべき」「ただひとつ確かなことは、一瞬一瞬、私たちはここに存在しているということだけだ。もし、それを言い換えるなら、一瞬一瞬、小さく死んでいるということになるのだろう」など、深い言及が示唆を与えてくれる。


リーダーシップについて考える機会が多い中で、なるほどと共感できるのは「尊敬する指導教官に共通するのは『引き出してくれる力』。やりたいことをやる中で、それを理解していくれる感覚というのがあった」という記述。


死生観について、とても深く考えさせてくれる。いずれも実話なので、それが胸を打つ。まだその域には達せられないが、そんな中でも「他人には、ふらふら遊んでいるようにしか見えなかったかもしれないが、本人は必死だった。そうやって人生を治癒している最中に、身体が変わり、味覚が変わり、読む本、人間関係が変わってしまった。心身ともに健康を取り戻した私は、もう以前の私ではなかった」というところは、体感をもって理解できる。実際、病気で苦悩する、ということは人間が脱皮するようなことなのかもしれない。では、死は?自分はまだまだ答えを見出せていないが、そのきっかけとなる一冊となりそうだ。ぜひ、一読をお薦めしたい。