世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

[読了】中土井僚「U理論入門」

今年48冊目読了。オーセンティックワークス代表理事にして、オットー・シャーマー博士「U理論」を翻訳した著者が、難解極まりない「U理論」をわかりやすく読み解くことを目指した入門書。


…と言いつつ、600ページを超える書籍の入門書が429ページあるという冗談みたいな話(笑)。でも、中身は「U理論」よりもはるかに噛み砕かれている。


「第三者として見ていると、双方の態度や言動が、相手のネガティブな反応のトリガーとなっていることは、手に取るようにわかります。しかし当事者どうしは、第三者が見ているようには自分の態度や言動を捉えることができないので、それが相手のネガティブな反応を引き出していることに、なかなか気づくことはできません。」という記述を俟つまでもなく、人は自分が問題の片棒を担いでいるという感覚を持つことが本当に難しい。そして、自らが問題の一部であると、その解決は飛躍的に困難になる。


では、どうすればよいのか。「本番に強いと言われる人たちは、枠組みに囚われるのではなく、それよりも目の前の現実に集中しているからこそ、良いパフォーマンスを生み出せている」「自分の行動を生み出している源にアクセスし、それを転換させることで、目に見える行動は変わらなくても、行動の質そのものが変わり、結果が変わってくる可能性がある」というあたりは、言葉で読むとスピ系のように取られてしまいがちだが、これは本当に「体感していく」ことで身に着けていく、というものである。実際、この本を初読した時には、自分としては「なんじゃこりゃ」という感じであった。


コロナ禍の中で再読すると、「執着したものを手放す、何かに対して自己同一視化した状態を手放す」「先が見えない虚空に一歩踏み出すからこそ、出現する未来がある」のあたりの記述に否応なく直面させられる。過去にしがみつくのか、未来に羽ばたけるのか。それを決めるのは、自分自身。


そんな状況だからこそ「われわれという器を通して現れたがっているものに道を譲ることこそが、創造性と関連している」「ひらめき、ワクワク、試行錯誤は互いに切っても切り離せない関係にある」「ひらめきや直感に対して、後付けで理屈をつける」のあたりを大事にして、この苦境をチャンス(機会)と捉えて前を向きたいものだ。


数値目標で物事を図ることが極めて難しい社会に踏み出した今、「心理学における成長とは、自分の中に他人の目玉が増えることだ」ということを強く留意して生きていきたい。


きっかけはブックカバーチャレンジであったが、一定の周期で読み返すことが大事に感じられる良書。最後のあたりで「ソーシャルメディアとコレクティブリーダーシップ」について、東日本大震災後の節電への働きかけについて希望を持って記述されているが、これがコロナ禍の今、どう動くのか。この9年、日本人は前に進んだのか、後ろにさがったのか。重い問いを突き付けられた気分だが、信じて前に進む勇気を持とう。