世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】山口周「武器になる哲学」

今年1冊目読了。組織開発・人材育成を専門とするコーン・フェリー・ヘイグループのシニア・クライアント・パートナーにして一橋大学経営管理研究科非常勤講師の筆者が、人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50を書き表した一冊。

これは、本当に面白い。読みやすくて、かつ役に立つ。哲学というとやけにハードルが高い気がするが、それに対して「初学者が哲学に挫折する理由は、哲学者の残したアウトプットを短兵急に学ぼうとするものの、アウトプットがあまりにも陳腐であったり誤っていたりするために、学ぶ意味を実感できないから」と答えてくれる。なるほど。

教養を身に着ける大切さについては「哲学を学ぶ意味は①状況を正確に洞察する②批判的思考のツボを学ぶ③アジェンダを定める④二度と悲劇を起こさないために」「目の前の慣れ親しんだ現実から課題をくみ取るためには、常識を相対化することが不可欠」「見送っていい常識と、疑うべき常識を見極める選球眼を与えてくれるのが、空間軸・時間軸での知識の広がり=教養」と読み解いてくれる。

人に関するキーコンセプトで響いた記述は「人の行動を本当の意味で変えさせようと思うのであれば、説得よりは納得、納得よりは共感」「その人が何を言おうとしているかをより正確に理解しようとする場合、その人が何を肯定しているかよりも、その人が何を否定しているかを知るほうがより重要な場合がある」「ルサンチマンを抱えた人に価値の逆転を提案するというのは、一種のキラーコンセプト」「古人の成長、幸福を実現するために、自分を分離するのではなく、自分自身でものを考えたり、感じたり、話したりすることが重要」「悪とは、システムを無批判に受け入れること」「社会の圧力が行動を引き起こし、行動を正当化・合理化するために意識や感情を適応させるのが人間」「人が創造性を発揮してリスクを冒すためにはアメもムチも有効ではなく、そのような挑戦が許される風洞が必要であり、人が敢えてリスクを冒すのはアメが欲しいからではなく、ムチが怖いからでもなくただ単に自分がそうしたいから」。

組織に関するキーコンセプトで響いた記述は「どのようなリーダーシップのあり方が最適なのかについての答えは、状況や背景によって変わる」「会社や家族という構造の解体に対応して、いわば歴史の必然として、新しい社会の紐帯を形成する構造が求められる」「ある思考様式・行動様式が定着している組織を変えていくためのステップは、解凍=混乱=再凍結」「人がある組織なり集団なりを支配しようとするとき、その支配の正当性を担保するには歴史的正当性、カリスマ性、合法性の3つしかない」。

社会に関するキーコンセプトで響いた記述は「偶発的なエラーによって進化が駆動される」「会社の解体、家族の解体が進んだ場合は①家族の復権ソーシャルメディア③ヨコ型コミュニティがアノミー化を防ぐカギとなる」「危ないと感じるアンテナの感度と、逃げる決断をするための勇気が重要」「商品なりサービスが、どのような差異を規定するのかについて、意識的にならない限り、成功する商品やサービスの開発は難しい」。

思考に関するキーコンセプトで響いた記述は「自分が依拠している言語の枠組みによってしか、世界を把握することはできない。それでもなお、より精密に、細かいメスシリンダーを用いて計量するように世界を把握することを試みるのであれば、言葉の限界も知りながら、より多くの言葉を組み合わせることで、精密に概念を描き出す努力が必要」「客観的事実と考えているものを一度保留することで、対話できる余地が広がる」「世界を変えるような巨大イノベーションの多くは、何となくこれはすごい気がする、という直感に導かれて実現している」「脱構築の基本的な考え方は、二項対立の構造を崩す」「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」。

「変化には必ず否定が伴う」。それを心に刻んで、今年も前進していきたい。