今年42冊目読了。ドイツの劇作家、演出家、詩人である筆者による、「ちょっといい話」の短編集。
簡単に読めるうえに、どれも機智に富んでおり、「ははぁ、なるほど」「お、これは面白い」など、軽くて教訓めいた感じではないのに、人生訓を巧みに織り込んでおり、筆者の社会観察力とそれを表現する力を感じずにはいられない。
そして、第一次大戦に衛生兵として従軍、ヒトラー政権誕生後に北欧からアメリカに亡命したという経緯が、一見軽く感じられる記述に実は奥深い闇が隠されているという独特な筆致を生み出しているようにも感じる。カエサルやソクラテスから、無名の町人や子供まで、あらゆる人を通して社会の本質をあくまでライトに描き出そうとした筆者の意欲は半端ではない。
しかつめらしい表現も個人的には嫌いではないのだが(笑)、やはり、世の中にはこのようなテイストが受け入れやすいのだろう。そして、今読んでも生き生きとした小説だが、戦後の傷ついたドイツにおいてはさだめし「人間社会は捨てたものではない」と思われたことだろう。筆者の人間愛、社会愛を感じることができる。
さらりと何かの折りに読んでみてはいかがだろうか。