世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】門倉貴史「本当は噓つきな統計数字」

今年108冊目読了。BRICs経済研究所代表にして、同志社大学大学院非常勤講師である経済学者の筆者が、統計数字にひそむ嘘を見抜くことを推奨する一冊。


「ホンマでっか?TV」でイロモノ的に扱われて名を売ったイメージが強すぎるが、書いてあることは至極まとも(そうでないと困るのだが)。


業務上、データを作成する際には「自然科学・社会科学を問わず、統計データの作成基準やバイアス(偏向)をきちんと把握したうえで丹念に統計データを読み込み、場合によっては自らの手で二次加工をしないと、データの裏に隠れている真実を引き出せずに終わってしまう可能性がある」のあたりは留意しておきたいところ。


本書が2008年の著作であることから、「ネット調査は高頻度で素早く調査を行えるため、『前回調査と比べて結果がどのように変化したか?』というような、時系列での比較を行いたい場合には適している。一方、ある時点における正確な数字を把握したい場合には、ネット調査では誤差が大きく不向きである」のあたりはだいぶ(時代の変化によって)怪しくなった気がする。


陥りやすいバイアスについては「利用可能性ヒューリスティック(ある事象が起こる客観確率を考える時、その事例に当てはまる事例がどれだけ自分の記憶に残っているかによって、主観確率が左右されてしまい、客観確率と乖離する現象)」「フレーミング効果(ある事象について、論理的には同じ事を言っているのに、表現の方法を変えると、なぜかそれを受け止める人の評価が異なってしまう現象)」「自信過剰(客観確率が高くないのに、根拠もなく自分のとった行動は成功につながると思い込んでしまう現象)」の3つに加え「人間には確率で把握することのできない『あいまいさ』に対して極端に臆病になるという心理的なバイアスもある」のあたりを踏まえてデータを『作る』『読む』に取り組みたい。


需要予測については「自然科学の分野であっても1秒先の世界すら予測できないのに、社会科学の分野で正確な需要予測が期待できるはずがない。私たちは、地方自治体や地域のシンクタンクが発表する『経済効果』のレポートの数字を鵜呑みにするのではなく、試算の前提条件として示される新規の需要予測が現実離れしたものでないかをチェックすることが必要」は納得。それに対する「虚構の数字に踊らされないようにするには、自分自身の頭のなかでいくつかの仮説を立ててみるのがひとつの有効な判断基準になるのではないか。たとえば、ある調査機関によって何らかのイベントについてプラスの経済効果が発表されたら、それとは逆にマイナスの効果がどこかで発生していないか自分であれこれ考えてみるということ」という処方箋も至当と感じる。


あとがきで「くれぐれも数ある情報の中から、自分に都合のいい情報ばかりを集めないでいただきたい。都合のいい情報ばかりを集めていると、せっかく個別の統計数字の読み込みに習熟しても、その意味がなくなりいつまでも客観的な真実をつかむことができなくなってしまうからだ」と筆者が述べるのは、実によくわかる。「人間は無意識のうちに、自分がそうあってほしいと願う情報、あるいは自分の信念に一致する情報を選び、自分が否定したい情報や自分にとって都合の悪い情報を排除する傾向がある」からなぁ…