世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】永井路子「北条政子」

今年32冊目読了。ベストセラー作家の筆者が、北条政子の人生を通じて鎌倉初期を描きつつ「一人の女性」である主人公の心の揺らぎを描き出す一冊。


NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に感化されて読んでみたが、主人公が「北条政子を、一般的な女性として描こう」とした意図が強く出過ぎて、歴史好きとしては逆に感情移入できず、なんとなくモヤモヤした読後感。


 とはいえ、このあたりの歴史を物語調でおさらいするには十分な内容。ネタバレも何も、歴史ものだから当然の流れなのだが、実朝殺害で止まってしまう(尼将軍の、承久の乱に際しての演説がない)のは非常に消化不良感が強い。


北条政子については「人に悩みをうちあけたりする政子ではないのだ。その強い気性だからこそ、数年間の波風をしのいでここまできたのだし、それが爆発すれば、こんどのように、とんでもないこともしでかしてしまうのだ」「おろかなまでにひたむきで、またそのゆえに多く傷つかねばならない…。考えてみれば、これまでの自分の生涯は、つねにその連続ではなかったか」という人物像として描き出す。


鎌倉幕府についての「長くおいでになってはいけません。鎌倉というところはね、いったん疑ったり憎んだりした人のことは、決して許さないのです」「ときには俺の情を殺してまでも、武士のこの集まりを守らねばならない。他のどの肉親であろうとも、その集まりを乱そうとしたものには、俺は死を命じるだろう。それが棟梁のつとめである。あるいは冷たいやつと言われるかもしれない。が、それでもよいと俺は思っている」「権力は妥協を許さない」のあたりの言葉も、なかなか重たい。


「ぎりぎり追い詰められたとき、---くよくよしてもはじまらない。ふしぎと腹がきまるのだ」


結果的に鎌倉幕府を仕切ることになった北条氏については「機敏さ、周到さのおかげで、北条氏は、みごとにチャンスをわがものとした。彼らはあえて非情な策をとった」の言葉がズバリと評している。現代から見ると、盤石な執権体制に感じられるが、鎌倉初期にはどう転ぶかわからなかった、ということがよくわかる。


人生訓としては「意地はいけない。意地で生涯をきめちゃいけないな。あとできっと後悔する」「人間の約束ほど、心もとないものはないんだ」「われ知らず目をそらせてきたものと、まともにむきあうことのおそろしさ!」「失敗を繰り返し、悔いを重ねながら生きていく―それが人生なのかもしれない」が個人的に心に響いた。