世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】若松英輔「弱さのちから」

今年110冊目読了。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授にして、批評家、随筆家でもある筆者が、コロナ禍の世の中が人間に何を問うているのかを考える一冊。


2020年に人類を襲ったコロナ禍を通じ、自己と社会のあり方を根本から問い直すというエッセイ集であり、文章は平易で読みやすいのだが、中身はかなり重厚である。


コロナ禍については「恐怖は私たちから考える力を奪う」「コロナ前の世界では、前に進むことばかりが良いとされてきた。しかしほころびがあるなら、戻って修復する必要がある」と洞察する。


弱さについては「危機は、これまで社会が、見て見ぬふりをしてきたものに起因する。ひた隠しにしてきた最たるもの、それが弱さだ」「自分の弱さを凝視しなければならない」「弱い人たちとのつながりが生まれる場、そこがほんとうの復興の起点になっていく」「これからは、いたずらに『強がる』リーダーではなく、真の意味で弱さを受け入れることのできる『弱い』リーダーこそが、人々と深いところでつながる」と述べる。


そのほか、「いたずらに未来をつかもうとするのでも、過去に戻ろうとするのでもない。今に何があるのかを突き止めようとする」「幸福も希望も生きがいも、それぞれ個々別々なはず。そして、それぞれが見つけ出さなくてはならない」「人は誰も、自分自身と深くつながっているとき、恐怖におびえているのとは別の道を行く。利己的ではなく、いくばくかの利他を心に宿し、短絡的な判断ではなく、拾い視座で世界と向き合える。そして、誰かに服従、隷従するのではなく、ひとり、おのれの道を歩く勇気を湧き立たせ得る」のあたりは、深く学んでいるU理論とも一脈通じるものがあり、正鵠を射ているなぁと感嘆する。


また、言葉の力についても言及している。「読書とは、時空を超えた旅である」「先人の言葉は、危機のとき、かけがえのない対話の相手になる。しかし、私たちは、他者から言葉を受け取るだけではなくて、自分で言葉を書くこともできる。本当に必要な言葉は、人は自ら書くこともできる」「心の糧、それは言葉。清浄な水と栄養豊富な食べ物を摂取するように、たしかなはたらきをもった言葉を心に注ぎ込み、やはり、十分な憩いのときを持たねばならない」「どこからかやってくる不安や恐怖から私たちを守ってくれるのは言葉である」は、心に刻みたい。


まさに今、読むべき一冊という感じだ。過去のフレームに縛られず、こういった観点に立つことも大事ではなかろうか。