世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】ベルクソン「笑い」

今年105冊目読了。19世紀から20世紀にかけて活躍したフランスの哲学者が、笑いのメカニズムを追求した一冊。

正直、かなり難解で、パッと理解するのはなかなか困難。ただ、SNSスマホに慣れきっている時代だからこそ、こういった骨太な本を読む必要があるとも感じる。
まず、著者は人の所作について「単純な一所為として人が示す放心を既に我々は笑うのである」としたうえで「人間のからだの態度、身振り、そして運動は、単なる機械を思わせる程度に正比例して笑いを誘うものである」と主張する。「これは、ほんとに生きている生は繰り返される筈はない」からだと理由づけて。そして「精神的なものが本義となっているのに、人物の肉体的なものに我々の注意を呼ぶ一切の出来事は滑稽である」と見抜く。
他方、言葉については「言葉の滑稽な繰り返しの中には、一般に二つの項が相対峙している。ばねのように弛緩する圧搾せられた一つの感情と、その感情を新たに圧搾することに興がる一つの観念と」としたうえで、言葉の笑いを誘う遊戯は「繰り返し、ひっくり返し、交叉とそう呼んでもよい三つの手だてをうる」とする。確かに、漫才などはまさにこの3要素のどれか(あるいは合わせ技)で成り立っているので、恐るべき慧眼である。さらに「或る言い廻しが譬喩的に用いられているのに、それを文字通りに解すればおかしな効果が得られる。あるいはまた、我々の注意が或る隠喩の物質性に集中されるや否や、その表されている観念がおかしなものになる」「或る考えの本来の表現を別な調子に移すことによって或る滑稽的効果が得られる」と述べる。
さらに、人の性格については「こわばり、自動現象、放心、非社交性、そのすべてが相互にもつれ合っている、そしてそのすべてによって、性格の滑稽味が作り上げられているのである」とする。

そして、笑いの効果についても「屈辱を与えるように出来ている笑いは、笑いの的となる人間に辛い思いをさせなければならぬ。社会は笑いによって人が社会に対して振舞った自由行動に復讎するのだ。笑いがもし共感と好意の刻印をうたれていたならば、その目的を遂げることはないであろう」と見抜く。

最近は、あまりお笑いを観なくなったが、この本の原則を意識すれば、たぶん読み解けるものは多いだろう。そして、この本がすでに1世紀近く前(1924年)に執筆された、という事実に愕然とする。人間、学ばざれば暗し。いやはや…難解であるが、読むことをお薦めしたい。