世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】スウィフト「ガリヴァ旅行記」

今年74冊目読了。アイルランド出身の、厭人という立場をとり続けた作家による不朽の名作。

これ、4章からなる大作なのだが、人口に膾炙している、かつ子供向けとして知られる「小人国への冒険」はあくまで1章。そして、その正反対の大人国(たいじんこく)への冒険、という2章から先は、あまり知られていない。

しかし、この本のあとがきが述べているとおり、本作の肝は3章・4章だ。筆者の人間という存在に対する冷徹・苛烈な批判が冒険記の中で炸裂し、「いかに人間というものが不合理で不道徳でしょうもない役立たずな存在であるか」ということを、まったくの異世界への旅ということに仮託して述べ続ける。かつて、夏目漱石はこの本を心から毛嫌いしたらしいが、それもむべなるかな。1章のコミカルさはどこへやら、3章と4章こそ、現代社会においても変わらぬ輝きを放っている。

人間は、理不尽で矛盾した生き物である。それを、このような形でまざまざと見せつけられることは、むしろ大人にこそ必要なのだ。この本は、完全に「世間をある程度知った大人」が読むべき本だ。ぜひ、一読をお勧めしたい。

余談だが、「天空の城ラピュタ」の基となった「ラピュタ国」、検索エンジン・Yahoo!の語源となった「ヤフー族」などが登場していて、それはそれでびっくりだ。また、3章においては、なんとガリヴァ氏、日本にも来訪しているではないか。1700年代における、イギリス人の日本人観も垣間見えて面白い。